【2022年度】【株式会社TRUSTDOCK】 「デジタル身分証」が導き出すスマートな世界 サービスを利用する側にも提供する側にもやさしいデジタル社会に向けて
スマートフォンの普及に伴い、様々な取引や決済がデジタル化されていく社会の中で、行政サービスのデジタル化も加速している。株式会社TRUSTDOCK(以下、TRUSTDOCK)は、急速に少子高齢化が進む中で、住民の利便性の向上のみならず、自治体や事業者の業務負担の軽減や業務の効率化を進めるため、「デジタル身分証」を通じて今後のデジタル社会に必要な取り組みを提案しています。デジタルアイデンティティはどうあるべきか?「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)実証実験プロジェクト」を通して見えてきた課題や展望について、TRUSTDOCK GRコンサルティングの渡辺良光さんにお話を伺いました。
富山県が本気でウェルビーイングの向上に取り組む姿勢に共感して実証実験プロジェクトへ応募
私は前職が自治体職員で、24年間にわたって自治体行政に従事してきました。その頃から、富山県の地方創生の取り組みに対して、「面白そうなことをしているな」と関心を抱いていたんです。その後、TRUSTDOCKに転職して、自治体DX推進に関する業務を担当することになり、「ぜひ富山県の担当の方とお話をしてみたい」とDX推進目安箱を通じてアポイントを取らせてもらったことが始まりです。
富山県の職員の方とお話をして魅力を感じたのは、地方創生の本質に目を向け、富山県の人口の約10倍に当たる「幸せ人口1000万人」という大きな目標を掲げ、本気でウェルビーイングの向上に取り組んでいるという点。
急速に少子高齢化が進む中、各地域では様々な課題を抱えていますが、富山県も同様の状況ではないかと思います。しかし、富山県には、美しい自然環境、豊富な海の幸や山の幸などに恵まれ、既に多くのファンがいらっしゃいます。既にファンの方には更に深く富山県に触れてもらう、新たなファンの方には様々な富山県の魅力を知ってもらうため、都市部での新たなサービスの創出、中山間地域での人材の確保や交流などの場面において、TRUSTDOCKの持つ本人確認に関する技術やノウハウが何か役に立つのではないか?と考え、今回の「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)実証実験プロジェクト」に応募させていただきました。
何度も必要となる本人確認や個人情報のやり取りを最小限に「デジタル身分証」を通して安全かつスムーズにサービスを連携
富山県では、今後、様々なサービスを連携して提供できるシステム基盤を整備し、業務横断的なサービスの提供、パーソナライズされた情報発信等を進めていく考えとお聞きしています。そうなると、サービスを提供する相手が本当にその本人であるのか、しっかりと確認する必要性が高まってきます。また、これまでは、業務ごとに異なるシステムを用いてサービスを提供してきたため、サービス間の連携が難しかったり、サービスごとに毎回毎回本人確認を行ったりといった課題もあります。
そこで、今回の実証実験では、今後の様々なサービスの連携を見据え、まずは「公的身分証を用いた本人確認」「1度行った本人確認結果の他サービスへの連携」を行い、利用者の負担感や使用感、技術的な課題等について検証を行うこととしました。
具体的には、一般モニターを募集した上で、各モニターが、マイナンバーカードや運転免許証で本人確認を行い、その結果に基づき「デジタル身分証」を作成。「デジタル身分証」を活用して、ID・パスワードを入力することなく、富山県の地産地消アプリ「食べトクとやま」にログインしていただきます。次に「食べトクとやま」から懸賞サイトに、「デジタル身分証」に記録された氏名、住所等の内容を連携し、氏名、住所等の入力をせずに懸賞に応募することができるという流れ。
本人確認に必要となる「デジタル身分証」のプロダクトは既に実装していたので、プロジェクト採択後は、富山県のどのアプリやサービスと連携するか、連携はどのように行うかなど、富山県の関係各課、「食べトクとやま」の開発事業者等との議論と調整を重ね、現在実験を行っています。
今後のサービス連携のためにはOIDCの活用が重要
エンジニア不足の中で、習熟したメンバーの確保が課題に
個人による自己情報コントロールの重要性が指摘される中、今後サービス連携を進めていく際には、本人の同意に基づきID連携を行うOpenID Connect(以下、OIDC)という技術の活用がポイントになると考えます。
スマートフォンで何かのアカウント登録をする際に、例えば「Googleでログイン」といった画面を見たことがある方も多いのではないかと思いますが、この手法はOIDCの技術を活用したものです。OIDCはグローバルな標準技術として、近年では国のgBizIDで活用されるなど行政領域にも広がりを見せており、今後は自治体でも活用する場面が増えると想定されます。
全国的にエンジニアが不足する中で、今回の実証実験では、このOIDCに習熟したエンジニアをどう確保するかが一つの課題となりました。富山県デジタル化推進室、「食べトクとやま」の開発事業者等と一緒に、今回の実証実験の目的を改めて確認した上で、技術的にできること・できないことを整理し、実施スケジュールを調整。なんとか必要なエンジニアを集めることができました。ただ、今後全国各地でDXの取り組みが加速していく状況下において、エンジニアの確保は常に課題となるはずです。今回の実証実験での経験が今後の富山県の取り組みに生きてくると思います。
ただ便利なだけではだめ
「誰一人取り残されないデジタル社会」を目指して
Cap)写真左プロダクトマネージャー 竹位和也/写真右GRコンサルティング 渡辺良光
今後、富山県で業務横断的に様々なサービスの連携・提供を行うためには、手続やサービスのデジタル化やそれに伴う業務フローの見直し、それらを連携させるプラットフォームの整備、各サービスとプラットフォームの連携等、多くの取り組みを進めていく必要があると思います。しかし、そこに近道はありません。今後の取り組みの基礎となるのがID連携であり、今回の実証実験は、まさにその第一歩だと考えています。
Cap)「デジタル身分証」の画面
今回のプロジェクトでは、我々の実証実験を含めて7件の事業者が採択されましたが、例えば、他の実証実験におけるプロダクトとTRUSTDOCKの「デジタル身分証」を組み合わせることで、さらなるサービスの向上につながる可能性もあるでしょう。4人のうち3人がスマートフォンを持つようになった現在、スマートフォン1台でスムーズに本人確認ができ、様々なサービスをシームレスに利用できる世界はすぐそこまで来ていると思います。
ただし、サービスが連携されて便利になる一方で、プライバシーに配慮した取り組みの必要性も忘れてはいけません。
また、例えば、高齢者、障害者、子ども等、スマートフォンをうまく使えない方やスマートフォンを持っていない方もいらっしゃると思います。こうした方々も使いやすいサービスの提供、対面での支援の充実等も非常に重要な取り組みと考えています。
我々としては、より多くの方々が「デジタル身分証」を使い、安全かつスムーズに、安心して様々なサービスを利用することができるよう、「誰一人取り残されないデジタル社会」に必要な技術の開発、必要なルールづくり等に引き続き邁進していきたいと考えています。
そして、そうした取り組みが、少しでも「幸せ人口1000万人」に向けた富山県の取り組みの力になり、また、そうした富山県の取り組みが、今後他の自治体におけるデジタル化のモデルケースになれば、非常にうれしく思います。