実証実験レポート

【2022年度】【NTTコミュニケーションズ株式会社】 ベビーテックで子育てを支援 画一的なものから、選択肢を増やした先に広がる世界

プロフィール

写真左)株式会社ドコモビジネスソリューションズ 原田 悠月

写真中央)NTTコミュニケーションズ株式会社 荒川 琴音

写真右)NTTコミュニケーションズ株式会社 廣瀬 花鈴

法人事業ブランド「ドコモビジネス」として、固定ネットワーク・クラウド・データセンターに、ドコモの5GIoT、コムウェアのソフトウェア開発力を合わせ、全国にトータルソリューションをワンストップで提供している、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTTコミュニケーションズ)。「DX」「GX」「CX」の3つの価値を創出しています。ウェルビーイングな世界の実現に向け、「赤ちゃん×テクノロジー」で富山県のどんな課題を解決しようとしているのか。プロジェクトを代表して、原田悠月さん、荒川琴音さん、廣瀬花鈴さんにお話を伺いました。

富山県発、全国へ。「ベビーテック」で新しい子育ての選択肢を

――原田さん:我々は、「ウェルビーイングな子育て」の実現を目指し、最新技術を活用して家事・育児を効率化することで子育て支援をしようと考えました。富山県では、県内の女性従業員の約7割から、「女性が社会で活躍するための最大のネックは家事の負担」という声も挙がっており、子育てにおける負担軽減の必要性を強く感じていました。

――荒川さん:また、男性の家事や育児の参加時間は、全国平均より低いこともエリアの特性としてありました。その結果、家事は女性がメインで担うため、仕事に力を入れられない状況に。これが、社会での活躍を望む女性の県外流出にも繋がっていると推測されました。そんな中、富山県がこのような解決すべき課題を明確化し、解決に取り組める場を提供していることを知り感銘を受けました。そこで、「富山県発の新しい子育ての選択肢を全国に向けて展開したい」と考え、「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)実証実験プロジェクト」に応募することにしたんです。

セミナーでの意識改革と、レンタルでのべビーテック体験

2つの軸からのアプローチを提案

――原田さん:このプロジェクトを手掛けたのは、組織横断的に結成された若手女性チームです。メンバーは、子育てと仕事との両立に不安を抱える当事者でもあるため、ベビーテックの分野に強い思いを持って臨みました。我々が提案するのは、ベビーテックと呼ばれる赤ちゃんに関するテクノロジーです。高性能ベビーモニターやAI寝かしつけライトなど、子育てを支援するスマートデバイスもその一つ。今回の実証実験では、これらの利用による効果検証をしました。

また、今回の実証実験には、ベビーテック活用の土台となる「子育てに関する理解」を深めていただくためのセミナー開催も含まれています。

富山県で子育てコミュニティを運営する株式会社ママスキー様と連携し子育て世代の方に役立つセミナーを企画し、県民や子育て応援企業向けにオンラインとリアルの両方で開催することができました。

――廣瀬さん:オンラインセミナーでは、平日働いていてなかなか時間の取れない方を対象に、夫婦で子育てを分担する方法や男性の育休取得について情報を発信しました。また、リアルイベントでは4種類のベビーテックを触っていただきながら利用シーンを説明し、ご家庭での利用イメージを想起。ベビーテックの機器を利用して子どもを寝かしつける体験実習を実施し、実際に手に取って使っていただくことで便利さや簡単さを実感していただき、レンタルに繋げていきました。

天候や家庭の事情によるイベント開催直前の参加者減

「知る機会」の損失をオンデマンド配信で回避

――荒川さん:実証実験を進める中で見えてきた課題は、リアルセミナーへの参加募集です。まだ一般的にはベビーテックの認知度はさほど高くないため、忙しい育児中の方にとって、参加するハードルが高いことがわかってきました。また、富山県は冬になると雪で移動がしづらくなるということを東京のプロジェクトメンバーはイメージしづらく、準備不足だったことも否めません。実際、天候によってスケジュールの見直しが必要になるなど、開催時期の確定や集客には苦労しました。そこで、出席できなかった方のために、リアルセミナーではなくオンデマンドによるWeb配信を実施するなど、べビーテックに興味を持った方の「知る機会」の損失を最大限減らせるよう努めました。

べビーテックの活用で、夫婦ともに育児に取り組むきっかけを創出

――荒川さん:富山県は、男性の育休取得率は全国平均より低い傾向にあるのですが、オンラインセミナーの参加者は5割が男性でした。このセミナーが、子育て参加に対する心理的ハードルを下げることにつながればと期待しています。また、リアルセミナーでベビーテックを体験された方の90.5%がレンタルを希望したいという結果も出ました。ベビーテックは、「一度使うと手放せない」と言う方が多いと感じています。最先端のベビーモニターをレンタルした方からは、「見守りの心配をせず、家事やほっとする時間がとれた」など、心や時間のゆとりに関するポジティブなご意見をいただきました。

――廣瀬さん:リアルイベントで印象的だったのは、機械が苦手で設置が不安だという奥様に、旦那様が「自分が設定するので大丈夫」と声をかけ積極的に活用しようする姿を見かけたことです。ベビーテックは、育児負担を軽減するだけでなく、男性の育児参加への障壁を下げることに繋がると実感した一幕でした。一方で、第一子のときも活用したかったという声もありました。できるだけ育児の初期に、ベビーテックを知る機会を設ける必要を感じました。そのためには、今後、自治体や病院との連携が課題になると考えています。また、ベビーテックは、家庭内での利用に閉じられるものではなく、保育施設、医療機関など育児に関わるさまざまな現場で役立つものです。どのようなご提案なら喜んでもらえるのか、現場に関わる皆さんとディスカッションを続けたいと思います。

――原田さん:もちろん、ベビーテックが子育てにおいて絶対なわけではありません。実証を進める中でも、「子育てを効率化したい」という声がある一方で、「子育ては全部自分の手ですることが幸せ」という意見もありました。幸せの定義はそれぞれで、ウェルビーイングな世界とは、画一的なものではなく、選択肢が増えた先に実現されるものであると、改めて感じています。我々が伝えたいのは、ベビーテックも選択肢の一つであるということ。それによって、心にゆとりのある育児の実現に貢献できければと思っています。

【ITを活用した育児】妊産婦さんの心身への理解と男性の育児参画推進のためのオンラインセミナー

1月24日、育児負担の軽減を目的として、育児にITを取り入れた「ベビーテック」の認知拡大・推奨のためのオンラインセミナーが開催されました。育児における課題や、「ベビーテック活用」で得られる効果などについて特別ゲストとして招いた2名の専門家の方からも貴重なご意見をいただくことに。

イベントの冒頭で、NTTコミュニケーションズの廣瀬さんが「育休制度」「富山県における育児を取り巻く現状」について語られました。

―育休制度とは―

「育児・介護休業法」で定められた労働者の権利で、原則として1歳になるまでの子どもを育てる従業員が取得可能。(厚生労働省「(事業主向け)説明資料「育児・介護休業法の改正について~男性の育児休業取得促進等~」」

―富山県における育児を取り巻く現状―

女性の育休取得率は全国平均と比べても98.8%と非常に高い数値であるのに対し、男性の取得率は全国平均よりも5%程度低い8.8%。さらには家庭内で育児に使っている時間を比較してみても、女性は男性より約4時間も多いことが報告。

NTTコミュニケーションズは、この育児負担の偏りに着目。本セミナーでは、パートナーの支え方や育児負担軽減に役立つトピックスを2部に分けてご紹介します。

【第一部】妊娠中や産後における、女性の心身の変化と男性による支援の必要性について

<講師>淀川キリスト教病院 柴田綾子 医師

――柴田医師:妊産婦さんの死亡原因の一位は自殺で、2年間で102件の報告。産後1年間はホルモンバランスの崩れなどもあり、メンタル的な部分でパートナーからの支援やその他の支援が必要という見解です。

産後うつ病は勘違いされやすく、「30人に1人がかかるくらい珍しい病気」、「メンタルが弱いからかかりやすい」などと言われることも。しかし、周産期うつ病にかかる割合は、10人に1人と言われるくらいの高い発生率。しかも、メンタルに疾患を抱えている方が発生しやすいのではなく、妊娠後期から分娩にかけて急激にホルモンバランスが変化することが起因しているとも。本人の気質やホルモンバランスの変化を直すことはできないため、「睡眠」「心理社会」という側面から支援が大切と考えます。

内閣府の調査研究によると、育児休暇取得によって、「仕事の効率化を意識」「定時で帰宅することを意識」などポジティブな意見が男性社員から挙っています。同じく企業側からも、「生産性向上」「企業イメージの向上」などの意見が。しかし、現実では取得率はまだまだ低く、産後パパ育休制度や育児・介護休業法の改正をもっと周知する必要がある。また、漠然と育児休暇を取得するのではなく、「出生届の提出方法」「沐浴の方法」など、育児に関しての知識を事前に頭に入れておくことも大切なのです。

そして、今日からできることとして、妊婦さんへの偏見をなくし、産後ヘルパー派遣事業などの育児支援サービスの活用も積極的に検討していただきたい。

【第二部】余暇時間創出のための育児負担軽減方法について

~ベビーテックを活用した夫婦間コミュニケーション促進~

<講師>株式会社ファーストアセント 代表取締役社長 服部伴之 氏

――服部氏:ベビーテックとは、「ベビー」と「テクノロジー」を組み合わせた造語で、最新の子育て支援サービスのこと。以前、「新生児の育児の中で大変だったこと」についてアンケートを取ったところ、一位「睡眠不足」、二位「自分の余暇の時間がない」という調査結果に。どちらも「時間がない」という悩みに繋がっていることがわかりました。そこで本セミナーでは、子育てにおいていかに心に余裕を持ちながら時間を生み出せるかという観点で、実証実験で活用した4商品を2つのテーマからそれぞれ紹介します。

赤ちゃんの寝かしつけを支援するベビーテック

  • 寝かしつけ支援ベッドライト:ainenne
    赤ちゃんの睡眠周期を向上させるだけでなく、泣いて寝てくれない時に、その泣き声をainenneに聞かせると「お腹がすいた」「眠たい」などの感情を分析するAIが搭載。開発時のテストでは、育児に対しての自己効力感が向上、育児ストレス軽減という結果が出ました。

  • 動く絵本プロジェクター Dream Switch
    天井に映像(絵本)を投影し、読み聞かせるもの。やっと横になったお子様が、寝つかず、すぐどこかへ行ってしまうような場合におすすめのサービスです。繰り返し活用することで、購入者の80%が寝る前の習慣づくりに効果があると回答。

    安全・見守りを支援するベビーテック

    • 病院で認められたべビーセンサー babysense home
      赤ちゃんを見守るセンサーは、設置はとっても簡単で赤ちゃんに触れることもなく、電源をオンにするだけ。体の動きが20秒間なかったり、動きの回数が1分間に10回未満になるとアラームとランプで周囲に知らせてくれます。赤ちゃんを寝かしつけた後、安心して自分の趣味に時間を注いだり、安心してトイレに行けたりします。

    • 小鳥型スマートベビーモニター CuboAi
      高性能の広角レンズ搭載で、暗いところでもしっかり赤ちゃんを見守ることができます。モバイルアプリを通じて簡単に赤ちゃんの睡眠を分析したり、赤ちゃんの顔が見えなくなった時にスマホにアラートが届いたりするので、何回も安否を確認しなくても安心です。

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    今回ご紹介したベビーテックを新たな育児の選択肢として活用いただき、心と時間に余裕の持てる育児の支援をしたい、と語る廣瀬さん。今回の実証実験の成果をとりまとめ、今後の取り組みに活かしていく予定です。