実証実験レポート

【2023年度】富山県のものづくり企業3社の共通課題の解決に向けて、行動分析などのDXソリューションを導入(富士通Japan株式会社)

プロフィール

写真左)富士通株式会社 クロスインダストリーソリューション事業本部
Manufacturing CoE 事業部 マネージャー 白井克樹

写真中央左)富士通株式会社 クロスインダストリーソリューション事業本部
Manufacturing CoE事業部 米澤和也

写真中央右)TSK株式会社 技術部 技師 長岡克樹

写真右)富士通Japan株式会社 北陸公共ビジネス部 堀田武嗣


日本の社会課題をデジタル技術で解決し、持続的な成長に貢献することをミッションに掲げ、自治体や民間企業に向けて、開発から運用までの一貫したサービスを提供している、富士通Japan株式会社(以下、富士通Japan)。親会社である富士通株式会社(以下、富士通)および、株式会社日本能率協会コンサルティング様とともに、富山県の製造業3社が抱える共通課題を抽出し、DXソリューションを導入する実証実験を行いました。その成果について、富士通Japanの堀田武嗣様、富士通の白井克樹様、米澤和也様、そして今回の実証実験の実施先であるTSK株式会社の長岡克樹様からお話を伺いました。

ひとの動きや作業実態を把握し、3社の共通課題である生産性向上の糸口をつかむ

-堀田氏:
昨年度、富山県IoT推進コンソーシアム様と一緒に人材育成に関する事業に参加しました。そこで次のステップとして、製造業のお客様にDXに関する取り組みを提案していた際、実証実験プロジェクト『Digi-PoC TOYAMA』の情報を伺ったのが始まりです。

昨年6月には、東京・渋谷で行われた『Digi-PoC TOYAMA』のキックオフイベントに参加。パネルディスカッションの登壇者で、昨年度の『Digi-PoC TOYAMA』の採択事業者でもある株式会社IoTRY(以下、IoTRY様)・加藤社長の話に圧倒されました。大学院休学中に起業し、製造業の中に飛び込んでDXを推進する姿に感銘を受け『Digi-PoC TOYAMA』に応募した次第です。

-米澤氏:
本プロジェクトは、富山県の製造業の現場における課題を抽出するところからスタートしています。TSK株式会社様(以下、TSK様)、株式会社山口技研様(以下、山口技研様)、株式会社ヤマシタ様(以下、ヤマシタ様)に協力いただき、実際に各社に赴き、ヒアリングを実施。KPIの管理状況や従業員エンゲージメントの悩みなど、項目別に課題をまとめました。その結果、各社ともに生産性の向上を最重要課題にしながら、ひとの動きや作業実態の把握ができず、改善の糸口がつかみきれていないという状況が浮かび上がってきたのです。

作業実態の把握は生産性管理にとどまらず、品質管理や工程管理、原価管理の精度向上につながる可能性があります。つまり、改善のカギは「ひと」。我々は、作業者のやる気や成長を促すための「見える化」を実現するDXソリューションを提供し、体験する次のプロセスへと進みました。

-白井氏:
提供した富士通のDXソリューションは、行動分析機能が含まれる「Fujitsu Kozuchi for Vision(フジツウ コヅチ フォー ビジョン)(以下、「Fujitsu Kozuchi」)」と「COLMINA 画像認識・異常検知AIです。

「Fujitsu Kozuch」は約100種の基本動作学習済みモデルと、ノーコードUIで作成する行動認識ルールにより、複雑な人の行動を容易に認識可能な技術です。

「COLMINA画像認識・異常検知AI」は「AI技術」と「ものづくり現場での経験」を基に、画像認識アルゴリズムを簡単な操作で高精度に自動生成、撮影した画像からリアルタイムに製造品質や設備の異常を自動判定できるというソリューションになります。

今回、実証実験の場を提供してくださったのは、オリジナルの包装やマテハン機器(※)の開発など包装物流サービスを提供する富山市のTSK様で、対象とした工程はマルチカッター機器関連作業です。
※)マテハンとは、マテリアル・ハンドリングの略称であり、「マテハン機器」とは、物流業務(商品の管理や運搬など)を省力化・効率化する機器や設備のこと。

-長岡氏:
これまで、工場で働くひとの動きを評価・可視化したいと思いながらも実現できずにいたので、今回の実証実験は本当に大きな意味を持っています。
例えば、初めて受注する製品であれば、何度も生産しているものに比べて段取りや作業における工数や時間はかかります。しかし現場の作業実態を知らない経営陣からは「生産数が落ちているのに、人手が減ってない」「短時間で終わらない」と言われることも。今回の実証実験で作業状況を「見える化」したことで、経営陣と現場の作業実態のズレも解消できますし、効率化という点でも改善の糸口が見えてきました。

DXソリューションで「見える化」、状況を分析して最適化の道を探る

-米澤氏:
「Fujitsu Kozuchi」を使った行動分析では、TSK様がマルチカッター機器のそばに設置していた監視カメラの映像を使って、作業者の位置検出を行いました。1日分の作業を分析するのに、従来はすべての映像を確認しながら分析を行う必要があったため10時間以上の時間を要していたのに対し、「Fujitsu Kozuchi」を活用すると、10分程度で完了できるようになったため、大幅な業務効率化につながっています。

-白井氏:
「Fujitsu Kozuchi」は骨格認識機能もあるので、作業者の手がどういうふうに伸びているのか、体の向きや顔の向きがどうなっているのか、といった3次元の動きを捉えられます。本来であれば、作業者の動作を具体的に認識する方向にいくのですが、今回の実証実験ではまずは作業者の位置情報を取得し、作業状況を「見える化」するところからはじめています。それはボトルネックとなっている工程や作業の分析が先決と考えたからです。そのうえで、長岡様や現場の皆様と「効率化のためには、こういう動きをしっかりとりたい」と動作にフォーカスを当てた、さらなる機能を加えていこうと考えています。

地に足をつけて、何が悪いのかを把握したうえで改善に踏み切る。そのための「見える化」であり、これをやらない限りは効果的な解決につながりません。

-米澤氏:
今回取得したデータは、改善点の見極めにももちろん役立ちますが、実際に改善したときに見比べられる“基準”のデータになると考えています。そういった点でも、今回の取り組みは有用と言えるでしょう。

既存の監視カメラの映像を使って、作業実態の可視化を実現

-白井氏:
作業実態を正確に把握するためには「Fujitsu Kozuchi」で分析する映像をしっかり撮ることが重要です。今回はTSK様の設置した監視カメラが大変有効で、カメラの画角を調整するなどしてそのまま使わせて頂きました。ただし専用のカメラではないため、検知精度が課題になりましたが、弊社の研究部門と連携し、AIルールを工夫することで、より精度の高いデータを抽出できるように取り組みました。

-米澤氏:
監視カメラのような既存のものでどのくらい検出できるのかというところも、実証実験として試していたので、これだけしっかりデータが取得できたのは確かな成果です。監視カメラを導入している企業も多いので、今回のように流用できるのは大きなメリットになるでしょう。

-長岡氏:
「Fujitsu Kozuchi」で作成された時系列グラフと監視カメラの映像を組み合わせた画面は、一目瞭然で大変わかりやすいものでした。課題を挙げるとすれば、動画データは非常に重く、あとでデータを見返す場合、データ転送等が大変です。

-白井氏:
富士通では工場内での人の動作や歩行導線にフォーカスしたシミュレーションツールCOLMINA デジタル生産準備 VPS GP4があります。こちらは仮想工場上で人の作業状況を再現できるので、動画を取り扱う必要がなくなり、データの軽量化も図れるはずです。また、レイアウトを変更したり、人がどう動くべきかのシミュレーションができるため、現状分析後の改善検討にも非常に有利になります。

-米澤氏:
作業者にとっては自分にフォーカスされた仮想モデルを見るだけでもモチベーションが変わるのではないでしょうか。「過去1ヶ月こう動いたから、成果が上がった」というように自分の行動と成果を紐付けて実感できるので、やる気や成長を促す一助になるはずです。

“生き生きと働くことのできる環境づくり”が、ウェルビーイングの第一歩


-堀田氏:
富士通グループとして日本のために何ができるのかを考え、日本を強くする会社として富士通Japan株式会社が誕生したのは2年前のことです。

今回の実証実験のヒアリングで、TSK様、山口技研様、ヤマシタ様からたくさんのお話を伺いましたが、もの作り企業を支えているのは「ひと」です。経営者は「ひと」を大切にしながら事業を進めていることを、改めて実感しました。

生産の効率化を実現することは、製造業の皆様が生き生きと働くことのできる環境づくりを後押しし、富山県の掲げるウェルビーイングに近づく一つの手段だと思います。今後も技術的なサポートを通して、働いている皆様がウェルビーイングを実感できるよう、一緒に取り組んでいきたいと考えます。

【実証実験レポート】

今回の実証実験は、第1段階として富山県の製造業の現場における課題を抽出。第2段階として、抽出した共通課題に対するDXソリューションの提供(体験)という流れです。

[第1段階] 富山県の製造業の現場における課題を抽出

富山県の製造業の現場における課題を抽出するため、TSK株式会社様(以下、TSK様)、株式会社山口技研様(以下、山口技研様)、株式会社ヤマシタ様(以下、ヤマシタ様)にご協力いただき、株式会社日本能率協会コンサルティング様と2023年9月から10月にかけて3社に赴いてインタビュー形式でヒアリングを実施しました。

(ヒアリング実施協力者)

株式会社日本能率協会コンサルティング(https://www.jmac.co.jp/
デジタルイノベーション事業本部DXコンサルティング推進室 室長
兼 シンクロノス・イノベーションユニット シニア・コンサルタント
神山 洋輔様

(ヒアリングご対応者)
TSK株式会社(https://tsk-corp.jp

技術部 技師 長岡克樹様(写真)
生産部 部長 原田真樹様

株式会社山口技研(https://www.yamaguchi-giken.com) 

代表取締役社長 山口剛史様(写真)
株式会社ヤマシタ(https://y-ft.co.jp/company/

 

専務取締役 福山成志様(写真)
業務改革推進室 中村真記様
業務改革推進室 髙間俊秀様

以下の項目別に、課題認識と現在の取り組み状況についてインタビューを実施。
・KPI管理
・KPI展開
・生産性管理(ひと)
・生産性管理(設備)
・品質管理
・工程管理(納期管理)
・原価管理
・デジタル活用
・エンゲージメント

その結果、各社ともに生産性向上が最重要課題であるものの、ひとの動き、作業実態が把握できていないため、改善の糸口が掴みきれていないということがわかりました。

そして3社のインタビューに基づいて、課題解決に向けての4つのステップを設定。
第1ステップ:ひと・設備・ものの見える化
第2ステップ:目標設定と評価
第3ステップ:標準設定と適正見積
第4ステップ:生産計画・指示の精度向上

[第2段階]抽出した共通課題に対するDXソリューションの提供(体験)

cap)富士通・米澤さんによる「DX実戦体験においてのテーマの位置づけや狙い」の説明

今回の実証実験は、第1ステップである「ひと・設備・ものの見える化」を対象にしています。実証先となるTSK様には3つのシーンを提案。話し合いの結果、マルチカッター機器関連作業の見える化を行うことに決定しました。マルチカッターは3台あり、1名が担当。設備動作時間は、TSK様とIoTRY様との取り組みにより把握していましたが、作業時間については把握できていませんでした。

富士通の持つDXソリューションの中から、今回の実証実験で提供するのは、「Fujitsu Kozuchi」の行動分析機能と人の目視判断を自動化する「COLMINA画像認識・異常検知AI」です。


<Fujitsu Kozuchiの行動分析機能>

TSK・長岡様による「時系列化されたグラフ」の説明


今回は専用のカメラではなく、TSK様がマルチカッター機器のそばに設置している監視カメラの映像を「Fujitsu Kozuchi」に使用。1日分の作業を撮影した映像に対し、「Fujitsu Kozuchi」にて作業者の「マルチカッター周辺作業」「PC操作行動」のフラグを検出し、時系列にグラフ化。さらに作業者の行動内訳についての円グラフを生成しました。

cap)富士通・米澤さんによる「手動自動による集計作業の比較」の説明

技師の長岡様に8時間分の作業者の映像を目視で確認してもらい、手動で作成した行動内訳と比較したところ、ほぼ同じものが作成できました。集計の所要時間は長岡様の手動の場合、約10時間。対する、「Fujitsu Kozuchi」での自動集計は約10分と、98%以上の大幅な時間短縮を実現しました。

<COLMINA 画像認識・異常検知AI>

富士通・白井さんによる「COLMINA 画像認識・異常検知AI」の説明

マルチカッターの稼働中にカットする材料が固定できず、加工位置がズレてしまう場合があるという課題に対して、マルチカッターの上部に接写カメラを設置。「COLMINA画像認識・異常検知AI」で判定アルゴリズムを構築した結果、非常に高い正解率で位置ズレを検知できました。今後、学習するサンプル画像の拡充、AIモデルのブラッシュアップにより、さらなる正解率向上が図れると思っております。

作業の異常をいち早く検知しすることで、品質の定量化、さらには材料廃棄ロスの対策にもつながると期待しています。

実証実験を踏まえ、さらに展開する「見える化」と課題解決への取り組み

TSK・長岡様が、実際の作業現場の状況を実証実験関係者に説明する場面も

今回の実証実験で得られた成果を踏まえて、その後の展開を長岡氏とすでに検討しているという白井氏。
「今後は、可視化された作業状況を見て、長岡様や現場の皆様とともに、改善でフォーカスしたい動作を決めていきます。例えば、パソコン前での作業やカットするための段取りなど。それぞれの動作に合わせて、専用のカメラを個別配置するなどして、より精度の高いデータを取りましょうと長岡様と話しています」と白井氏。

また「TSK様、IoTRY・加藤社長と取り組んでいる設備の稼働状況のデータと、今回の実証実験で取得した「ひと」のデータを照合し、ハイブリッドに生産性を分析することにも挑戦していきたい」と白井氏は語りました。

製造業の課題解決に向けての取り組みは、今後も続きます。

▼ご紹介ソリューション

・Fujitsu Kozuchi for Vision(本文中、「Fujitsu Kozuchi」と省略して表記)
https://www.fujitsu.com/jp/services/kozuchi/

・COLMINA 画像認識・異常検知AI
https://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/manufacturing/monozukuri-total-support/vision/image-ai/

・COLMINAデジタル生産準備 VPS GP4
https://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/manufacturing/monozukuri-total-support/products/plm-software/dmu/vps/gp4