実証実験レポート

【2023年度】DXの力で地方企業の経営の可視化と改善を目指す「DX経営」の伴走支援(株式会社フォーバル)

プロフィール

写真右)株式会社フォーバル 執行役員F-Japan本部 行政開発室 室長 広幡勝典様

写真左)株式会社フォーバル F-Japan本部 行政開発室 行政開発課 片山繁貴様

 

株式会社フォーバルは、情報通信の技術を利活用することで中小企業の経営改善を行うコンサルティング会社。現在の中小企業の経営のあり方を次世代型に変革するための取組みのひとつに「DX」を掲げ、「地方創生」と連動しながら全国の自治体との連携を強化しています。今回の「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)実証実験プロジェクト」で、どのような社会課題の解決に取組んだのか、執行役員であり行政開発室の室長である広幡氏にお話をうかがいました。

 

日本経済を支える中小企業の経営を変革するためのDX

――広幡氏:現在の日本経済を支えているのは全国の中小企業です。それはつまり、中小企業で働いている人が多く存在するということ。だからこそ、日本のさまざまな課題を解決するためには全国の中小企業に活力を取り戻してもらう必要があると考えています。地方の経済を司っている中小企業が元気になれば、地域全体にイノベーションが起き、新しい技術や文化が生まれ、若者が流入し、地域全体に活力が戻るでしょう。働く環境、暮らす環境を整えることで、ウェルビーイングな社会を構築する、それが私たちの目指す社会です。

 

そのための方法論のひとつとして掲げているのが、「DX経営」です。

 

まず、デジタルツールを使用して、会社の業績や現在の経営状況を可視化(STEP1)します。可視化されたデータを分析し(STEP2)、各企業の強みや弱みを洗い出すことで課題を抽出。その課題解決のためのデジタル技術を導入(STEP3)します。さらに効果検証を行い、改善(STEP4)を行うといった一連の流れを伴走支援で行う、それが今回の実証実験プロジェクトです。

 

※実証実験によるセミナー

開催されたセミナーの様子

 

ビッグデータを用いた経営情報プラットフォーム「富山県広場」

――広幡氏:現在は滑川市の製造業5社を対象に伴走支援を行っており、すべての会社がSTEP3の「デジタル技術の導入」を検討している段階に入っています。ただ、経営改善には多くの時間が必要です。この実証実験の期間内にどれだけの結果を出せるかは分かりませんが、継続的にDXに取組んでいただくことで富山県内の別事業者がDX経営に興味を示してくれることも視野に入れています。

 

DX経営の推進に何よりも必要なのは可視化です。私たちは今までに約4万5千社の企業様と取引を行ってきました。その経験をビッグデータとして格納した「きづなPARK」というプラットフォームを開発。この中に「富山県広場」を開設し、富山県内の企業に活用していただく取組みも進めています。

――広幡氏:「富山県広場(きづなPARK)」では、事業者の方に29の設問に答えていただくことで、「DXの推進体制」「デジタル技術の活用状況」「人材育成状況」「ビジネスモデル自体の環境」といった観点から経営状況を診断しスコア化します。このスコアは、全国約550万の事業者と比較した点数となっていて、現在の経営状況、強み・弱みなどを可視化。この技術を活用することで経営状況の可視化ができ、経営改善につながるというわけです。

富山県広場(きづなPARK)診断画面

 

課題は経営者マインドの醸成と維持、そしてDX経営の普及

――広幡氏:「ウェルビーイングな世界」に向かうためには、DX経営を目指す事業者様の社内環境、経営者や従業員の意識の醸成・維持が重要なポイントになります。DXというのは、単にデジタル化すればいいということではありません。DXには、新たなイノベーションを創造し継続した経営活動が求められます。しかし、そこに所属する方々の意識の持ち方や維持の仕方を体制的に支援したり、運用面で仕組みを構築するために多くの賛同を得ることは現在の課題と言えるでしょう。そのための施策として、実証実験プロジェクト参加企業以外の富山県事業者に対して、DX経営の必要性、実現した際に得られる未来像を理解・認識していただく事業として「セミナー形式」での啓蒙活動も実施しています。しかし、なかなか思ったような成果が出ていない状況であり、経営者マインドの構築・維持と地域内事業者の意識変革といった部分で課題感を抱えています。

 

もう1点、富山県に限らず、全国の中小企業経営者のほとんどは、経営状態や経営リソースが可視化されていないという課題があります。裏を返せば、経営状態や経営リソースを可視化できるようになれば、進むべき道が見えてくる可能性があるということです。今回の実証実験プロジェクトを通じて、富山県内の事業者が経営状態を可視化し、自らの力で立ち上がっていける環境整備ができれば、生産性向上から企業付加価値が身に付き、さらなるイノベーションが創造されるのではないかと考えます。

 

「DX経営」の成功の先にある日本が抱える課題の解決

――広幡氏:地域企業が成長することで、地域内経済が活性化し、雇用が生まれます。これは地方の人口減少対策の一助になり得るもの。地域内の事業者が成長を続ければ、安定財源としての税収が増え、結果として質の高い住民サービスへとつながっていきます。

 

「くらしたい国、富山」につながる。これこそが、「ウェルビーイングな世界」ではないでしょうか。

 

私たちが考える「ウェルビーイングな世界」は、「だれ一人、取り残さない、取り残されない」という理念を基にしたもの。今回の実証実験プロジェクトのテーマは、「富山県内企業へのDX推進」ですが、これは企業単位での支援だけでなく、従業員、家族、取引先への幸せの分配原資を生み出す事業だと考えています。そして、その効果を地域に広げていくことが本プロジェクトの目標です。

 

「だれ一人取り残さない世界」の実現に向けて

――広幡氏:強調したいのは、地方企業へのデジタル化を支援することではなく、持続的な価値の創出と分配を目指しているということ。企業の成長がステークホルダーへの幸せの分配だけでなく、新たなイノベーションを生み出すことにつながれば、そこで活躍したい若者も増えてくるはずです。そして、その若いエネルギーを原点に、更なるイノベーションを生み出す循環が維持されれば、だれ一人取り残さない世界を実現できると考えています。