実証実験レポート

【2023年度】駐車場の空き情報をAIカメラでセンシング。 センサIoTで、人の不安を解消(株式会社センサーズ・アンド・ワークス)

株式会社センサーズ・アンド・ワークスは、神戸発のセンサーIoT、データサービス事業を提供するベンチャー企業。全国に製品やサービスを提供する中で、関わりが生まれた富山県で、今回のデジポックとやまの観光産業領域の実証実験に参画することに。その成果を、代表取締役の堀江聡様、ともに事業に取り組んだ地元企業である株式会社堀江商会の瀬戸領太様、観光事業を営む立山黒部貫光株式会社の黒田春樹様から伺いました。

 

【インタビュー対象者情報】

株式会社センサーズ・アンド・ワークス 代表取締役 堀江聡様

https://www.sensorsandworks.com/

株式会社堀江商会 工事事業部 計測システム営業部 瀬戸領太様

https://www.horieshoukai.jp/

立山黒部貫光株式会社 営業統括本部 運輸事業部 運輸課 課長 黒田春樹様

https://www.alpen-route.co.jp/

 

センサで富山に安全と安心を提供するなか、ご縁と出会いを通じて観光事業に参画

–堀江氏:2019年より、富山市のLPWA(ロー・パワー・ワイド・エリア)という技術の活用を目指す事業に関わっています。具体的には、広域ネットワークを活用したIoTサービスの創出事業です。その中で当社は、水位の監視を遠隔化する水位センサや、コロナ禍でニーズの高まった人流を測定するセンサを提供。これらのプロジェクトを通じて、富山県の計測器システムの総合商社である堀江商会様ともつながりができました。

 

富山市での実績をもとに県のDX事業にも進出したいと考えて、動向をウォッチしていたところ、Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)実証実験プロジェクトを知ったのです。今回は8つのテーマが設けられていたのですが、堀江商会様を通じて、富山県の観光振興室様が「観光地の利便性向上」をテーマとしたプロジェクトの参画企業を探しているというお話をいただき、企画を提出してみようということに。その準備として、現場のニーズをヒアリングするため、立山黒部貫光様を引き合わせていただきました。

–黒田氏:私たちは、立山黒部アルペンルートの運営をしています。立山ケーブルカーなどの運輸事業や、ホテル運営事業など、観光に関する事業全般を手掛けています。また、自動車利用のお客様に立山駅からより近い駐車場を案内するため繁忙日など立山駅周辺に職員を配置することを自主的に行っています。駐車場は6ヶ所あり、それぞれの空き情報は職員が巡回して把握していたのですが、人員も限られるなか、タイムリーな計測と情報発信が難しく、課題となっていたのです。そこで、駐車場の満空状態をセンサで監視し、その情報をリアルタイムで発信するシステムを提案していただけないかと相談しました。

 

–堀江氏:当社には、駐車場の満空を測定するシステムの実績がありました。また、駐車場は登山口付近になると電線が整備されていないケースがほとんどでしたが、当社はソーラーパネルで電源を確保するセンサを設置するノウハウもあり、このプロジェクトは当社にとてもマッチしていると感じましたね。

 

プロジェクトの採択から実証実験まで、わずか2ヶ月。求められたのは技術力と交渉力

–堀江氏:当社はAIカメラで駐車場の満空状態をセンシングし、情報を立山黒部貫光様のホームページや、デジタルサイネージで表示するシステムを提案しました。当社が採択された理由の一つとして、「すべて電源工事なしで短い工期で実施できる」という強みがあったからだと思います。立山黒部アルペンルートは11月末には閉山します。事業の採択決定が8月のため、それから急ピッチで実証実験まで漕ぎつけて、完了する必要がありました。当社はソーラーパネルで電源を確保できるので、電線を引き込む工事が不要なぶん、スピーディにプロジェクトを進められると期待されたのです。しかし、思いも寄らないところに壁が待ち受けていました。

–瀬戸氏:カメラを設置するにあたって、その土地の所有者に許可を取らなくてはなりませんでした。しかし、国立公園内ということもあって、立山砂防事務所様、国土交通省、環境省などのさまざまな権利が複雑に絡み合っていました。また、駐車場が砂防地にあったため、河川法など法律に則った手続きも必要に。そのうえ、国への申請は県庁の所定の窓口を通さなければならず…。どの部署の誰に動いてもらうのが最短なのか、キーパーソンを必死になって探しました。

 

また、県としては、国に対して不備のある申請を上げるわけにはいきません。納得いただける書類を作るために、何度も何度もやりとりしましたね。そのようななか、心強かったのは、地権者の一つでもある立山町様が「これはとても良い事業だ」と積極的に後押ししてくれたことです。そんな力添えを受け、ひとつ上の申請を通すたびに、このプロジェクトに力を割いてくれる方が増えていきました。そのみなさんの思いが通じて、無事、国から承認を受けられたのは本当に嬉しかったです。

 

観光客に喜ばれ、提供側も「ラクで、楽しい」サービスに

–堀江氏:堀江商会様にカメラ設置の承認のために動いてもらうのと並行して、実証実験の第一フェーズに突入。立山黒部アルペンルートの繁忙期観光のピークが10月初旬のため、この時期に効果検証に必要なデータを集める必要がありました。

 

第一フェーズでは、カメラを使わず、人の監視によって駐車場の満空情報をタブレット端末に入力。そのクラウドデータをもとに、デジタルサイネージとホームページで駐車場情報を発信し、観光客にどのように受け入れられるのかを、路上調査しました。すると、「現地まで行かなければわからなかった駐車場の空き情報がわかるのがありがたい」という好意的な声が多数寄せられたのです。

 

また、リピーターを増やすのが立山黒部貫光様のミッションでもあるのですが、「案内板がある!今年はいいよね」という声もいただいており、大きな手応えを感じました。10月下旬、カメラ設置の承認が下り、満を持してAIカメラによる自動監視もスタートしました。これによって立山黒部貫光様の業務効率も格段に上がりました。

–黒田氏:一番効果を感じたのは、各駐車場の一部は満車になってしまう、というような微妙な混雑状況のときです。土日祝は繁忙が予想されるため、予め人員を確保できるのですが、平日は微妙な混雑が多く、少ない人員で各駐車場をすべて巡回する必要がありました。AIカメラによって、こちらが動かなくても、正確でリアルタイムな情報をお客様に提供できるのは非常にありがたかったです。それに、オフィスに居ながら駐車場の様子が手にとるようにわかるのは、楽しくもありました。

 

–堀江氏:立山黒部貫光様は、長年駐車場を運営していますから、経験知で「今日の混雑具合なら、どこかは空いているだろう」と予測できると思うんです。しかし、サービスを提供する側としては、やっぱりご自身の目で確かめないと不安だというお気持ちもあり…。それを解消できたことも、成果として大きいと考えています。

 

IoTの恩恵と人の感性がマッチするのが“ウェルビーイングな世界“

–堀江氏:駐車場管理のIoT化によって、お客様の利便性の向上と立山黒部貫光様の業務負荷低減の両方に寄与できることがわかりました。今後もあらゆるデータ取得環境構築とデータアナリシス、経験や体感などの属人的な感覚に頼っていた情報の数値化やデータ活用を模索していきます。

 

ただ、すべてをデジタルだけで管理するのは、問題があると思います。たとえば、立山登山ケーブルカーの駅に近い駐車場は満車なのですが、遠くの駐車場に止めると、立山ケーブルカーの出発時刻に間に合わない場合があります。そんなとき、立山黒部貫光様は、満車になっている駐車場でもデッドスペースの活用や、駐車位置の調整などを人の手で行い、融通を利かせていました。このほか、サイネージやホームページの駐車場情報を探し出せないお客様にご説明するといったフォローも実施されています。これらは、IoTだけでは提供が難しく、なおかつお客様にとっては素晴らしいサービスです。

 

デジタルに合わせるのではなく、IoTの恩恵と人の感性がマッチした世界、それこそが私たちの目指すウェルビーイングな世界。当社は、デジタルでできること、人力だからできることを明確化し、共存することが大切だと考えています。

 

【実証実験レポート】

 

今回の実証実験では、センサやカメラ画像による車両カウントを行い、それらをAIによる分析で駐車場の占有率を割り出し。その情報をホームページやサイネージなどで案内し、スムーズな車両の誘導を実現しています。

駐車場車両カウントに基づくスムーズな駐車誘導システム

電源にはソーラー電池を使用。オールソーラー電源駆動によるポータブル&低コストシステムとなっています。電源の確保が難しい公園駐車場、イベント会場などのテンポラリ運用も実現可能となっています。なお、ソーラー電池は蓄電式となっており、日が陰ったときにも電源を一定時間確保。また、省電力技術によって、より長い時間の連続駆動を図っています。

今回、サイネージは、ケーブルカーの起点となる立山駅(上画像)と、観光客の主要経路となっている橋付近に設置。外国人観光客も視野に入れ、主要情報の英語併記と駐車場情報は一般的な「満」「空」表示ではなく、「○」「×」表示を採用しています。

 

実証実験は2回に分けて実行。第1フェーズ(2023年10月~11月)では、駐車場情報のホームページ、サイネージでの情報発信による効果検証として、観光客への聞き取り調査を実施しました。

 

第2フェーズ(2023年10月後半~11月)では、AIカメラ等のセンサを設置し、遠隔監視を実施。カメラ・ソーラーパネルともに小型なので、1本の細い柱があれば固定でき、設置工事は1日で完了しました。

 

カメラで遠隔監視したデータは、リアルタイムにホームページやサイネージに反映。また、手元のタブレットで確認できる仕様となっています。その効果については、観光客や駐車場を運営する立山黒部貫光様にヒアリングしています。

 

WEBサイト管理画面

今後のサービス継続や水平展開も構想中

「観光客は、リピーターも含めて好印象な反応をいただいております。混雑緩和とスムーズな駐車場誘導に寄与できました。」と堀江氏。駐車場運営の面でも、巡回して目視確認するといった人的な負担を低減。さらに正確な情報をリアルタイムで提供できるようになり、サービスの質向上にも貢献しました。

今回のシステムを、「来季も活用したいという期待の声があり、継続して提供する可能性がある」と堀江氏。また、県内には称名滝をはじめとする多数の観光スポットがあり、スポット的なイベントでも車での移動がほとんどのため、駐車場管理のニーズがあるといいます。

 

「施工・運用コストを抑えて、スピーディにサービス提供を開始できる当社のシステムは、さまざまな水平展開が可能だと考えている」と堀江氏。今後も実証実験の成果を活用し、人々の生活にセンサIoTで、さらなる安全・安心を提供していく予定です。