実証実験レポート

【2023年度】特別支援教育における、ロボットを活用したソーシャルスキルトレーニング(三菱総研DCS株式会社)

三菱総研DCS株式会社は、持続可能な未来をITで実現することを目指し、⾼品質なITトータルソリューションを提供する企業です。今回、富山県にある「しらとり支援学校」「高岡高等支援学校」の2校を対象とし、ロボットを活用したソーシャルスキルトレーニングの実証実験を実施。「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)実証実験プロジェクト」を通して得られた成果や見えてきた課題、展望などについて、三菱総研DCS株式会社(以下、三菱総研DCS)の西岡裕子様と山口凪様にお話を伺いました。



【インタビュー対象者】
三菱総研DCS株式会社 

写真左)テクノロジー部門 テクノロジー企画部 担当部長
西岡裕子様

写真右)コンサルティング・セールス本部 マーケティング部 セールスプランニンググループ
山口凪様
https://www.dcs.co.jp /

トレーニングの様子をロボット内蔵のカメラで録画し、生徒の感情の見える化も

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【実証実験 概要】
実証実験の対象となるのは「しらとり支援学校」と「高岡高等支援学校」の2校。Aldebaranの小型二足歩行ロボットNAOを活用したLink&Robo for グローイングを「しらとり支援学校」ではコミュニケーションの授業に、「高岡高等支援学校」では、就労支援のための接客練習に導入。

それぞれのグループごとに段階を踏みながら、トレーニングを実施。効果測定の方法として、生徒・教員へのアンケートやスキルチェックシートの記述に加え、ロボットの内蔵カメラで映像を録画し、それを感情分析AIにかけて、三菱総研DCSで数値化などを実施しました


<しらとり支援学校> 

高校1年生グループ


(1)ロボット(教員が操作)を相手に会話

(2) 初めて会う人(三菱総研DCS社員)と会話、ロボット(教員が操作)は生徒から見えるところにいて、応援&サポート

高校3年生グループ

(1)ロボット(教員が操作)を相手に会話
(2)ロボット(三菱総研DCS社員が遠隔操作)を相手に会話
(3) 初めて会う人(別学年の教員)と会話、ロボット(教員が操作)は生徒から見えるところにいて、応援&サポート

 

<高岡高等支援学校>

前半グループ

(1)ロボット(教員が操作)を相手に練習
(2)ロボット(三菱総研DCS社員が遠隔操作)を相手に練習
(3)校内にある喫茶店「えびCafé」で、初めて会う人(三菱総研DCS社員)に接客、ロボット(教員が操作)は見えるところにいて、応援&サポート

後半グループ

・前半グループが行った(1)(3)を3月に実施予定

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-山口氏:

実証実験を行う中で、想定外のこともありました。Link&Roboは遠隔操作もできるので、しらとり支援学校の高校3年生グループと高岡高等支援学校の前半グループの実証実験に組み込んだのですが、技術的な課題が見つかり長時間の遠隔操作を安定して行えないことが判明。3月に実証実験を行う予定の高岡高等支援学校の後半グループの項目からは省くことにしました。

-西岡氏:
グループごとに実施内容は多少異なりますが、大まかな流れとしては、まず「先生が操作するロボットと練習・会話」、その後ステップアップして「初めて会う人とコミュニケーション」を行います。

本プロジェクトでは、特別支援教育を専門としている富山大学の栗林特命准教授をはじめとする有識者の皆さまの協力を仰ぎながら、実証実験の準備を進めてきました。栗林先生に、生徒には初めて会う人とコミュニケーションをとってもらうことを伝えると「いつも練習相手だったロボットがそばにいるだけで、安心してコミュニケーションできるのではないか」とアドバイスをいただきました。

私たちもそれぞれ学校に足を運びましたが、私はしらとり支援学校の実証実験に初めて会う人として参加。事前に決められた内容であれば受け答えできるくらいの中程度の知的障がいのある生徒さんたちでしたが、「NAOくんのお友達の西岡さんがきました」と紹介してもらうと、担任の先生も驚くような落ち着いた応答をしてくれたんです。まさしく栗林先生のおっしゃる通りの反応でした。

-山口氏:
私は高岡高等支援学校の「えびCafé」に参加しました。大変上手にコミュニケーションできていて、当日いらした栗林先生も褒めていらっしゃいました。当初は1対1の接客のみ実施する予定でしたが、現場の生徒さんの反応や表情を見ながら、これまでやったことがなかった2人のお客様への接客にも挑戦し、見事に成功していました。

ロボットとのコミュニケーションが、生徒らの自信につながる理由

-西岡氏:
ロボットを用いることによるメリットはいろいろありますが、その一つに先生の支援が挙げられます。特別支援教育のコミュニケーションの授業では、一人の先生が指導とコミュニケーションの相手役の2つをこなさなければなりません。もし、コミュニケーションの相手役をロボットに置き換えることができれば、先生は2人(生徒とロボット)の関係を横から見ることができ、指導に集中できるようになります。

ほかにもメリットがあります。生徒さんにとって先生は、毎日一緒にいる親のような仲の良い人。しかし彼らにとって課題なのは、初めて会う人や身近な人以外とのコミュニケーションです。初対面の人は怖くてハードルが上がるため、ワンクッション置くためにも、まずはロボットと練習をし、自信を得てから次のステップに進んでもらうという役割を果たせると考えています。

障がいのあるお子さんは自分に自信を持ちにくく、失敗に対して繊細な傾向があると感じています。でもロボットが相手だと、たとえうまくいかなくてもロボットが間違っているって思えるんです。だから失敗を怖がる必要がなくなります。「ロボットはできないことが多いから、助けてあげようね」という導き方ができるのも大きな魅力ではないでしょうか。

また、特別な支援を必要とするお子さんは、環境に対しても敏感です。話し相手のさまざまな表情やジェスチャー、言い方の違いが情報過多につながり、頭の中で処理が追いつかず、相手の話に集中できなくなるといいます。その点、ロボットは無表情でイントネーションも常に一定です。そのため、ロボットが言っていることは理解しやすく、わかるので「もっと聞きたい」というモチベーションにつながっていく。「だから、ロボットはちょうどいい」と特別支援教育の研究をなさっているある先生からお伺いして「なるほどな」と思いました。

誰もが対等に自分を全うできる、社会に居場所がある、それこそウェルビーイングな世界


-山口氏:
ロボットを活用した特別支援教育について、全国各地の教育委員会や学校はもちろん、多くの人に知ってもらうことが大切です。この『Digi-PoC TOYAMA』への参加もそうですが、より認知をしてもらえるよう取り組んで行かなければなりません。

-西岡氏:
今回の実証実験では、遠隔操作機能の課題を見つけることができました。遠隔操作は人とつながるという意味でも可能性を秘めているので、今後も積極的に試していく予定です。将来的には、全国のロボットをつないで、自分たちと同じように障がいを抱えている人たちがそれぞれの場所で、悩みながらも楽しく暮らしていることを実感してほしい。また、サポートなしでいろいろなところに行くことはなかなか難しいと思うので、ロボットを介してもっと広い世界を見せてあげたいと思っています。

私たちが考えるウェルビーイングな世界とは、障がいがあってもなくても、男性でも女性でも、誰もが対等に、自分を全うできるような世界のことです。

例えば、学校や職場にうまくなじめなかったり、外国がルーツで日本語を上手に話せなかったりする方たちへのサポートもそうです。コミュニケーションは大切ですが、手段は一つではありません。自分がしゃべらなくても、ロボットがしゃべってくれれば、それでもいいと思うので。

無理なく、自分のできる範囲で得意なことを伸ばしていき、社会の中に自分の居場所ができる。それをサポートするためのサービスをICTで実現・提供していきたいと考えています。

・「Link&Robo」は、三菱総研DCS株式会社の登録商標です。
・本サービスは、Aldebaranの「NAO」を活用し、三菱総研DCS株式会社が独自に実施しています。
・「NAO」の名称はAldebaranの登録商標です。