【2023年度】公共施設の点検・メンテナンス作業の効率化を後押しするDXサービスを提供(スパイダープラス株式会社)
スパイダープラス株式会社は、「“働く”にもっと『楽しい』を創造する」をミッションに、建設業の施工管理サービスの開発と提供を主な事業とする企業です。今回の「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)実証実験プロジェクト」では、これまで培ってきた知見を活かし、和田川ダムと富山県国際健康プラザの2か所で、点検保守管理業務にDXサービスを導入。業務の負担の軽減、効率化、迅速化に取り組みました。その内容と成果について、スパイダープラス株式会社(以下、スパイダープラス)の福本太一郎様、廣瀬由依様、齊藤健太郎様からお話を伺いました。
【インタビュー対象者】
スパイダープラス株式会社
ビジネスグループ 商品企画部 シニアエキスパート 福本太一郎様
ビジネスグループ 商品企画部 シニアエクスパート 廣瀬由依様
プロダクトグループ プロダクト戦略部 シニアエキスパート 齊藤健太郎様
https://spiderplus.co.jp
建設業のDX化で得た知見を、地域創生に役立てたいという想いから応募
-福本氏:
スパイダープラスではこれまで、建設業の現場管理を中心としたサービスを提供してきましたが、培ってきた知見を地域創生にも役立てられると考え、自治体DXにも業務領域を広げようとしていました。そのタイミングで、今回のプロジェクトにおける我々のパートナーである株式会社ガバメイツ様が、自治体におけるDX推進事業に関して富山県様と以前協議をされていた経緯があり、実証実験プロジェクト「Digi-PoC TOYAMA」の存在を知りました。
今回のプロジェクトでは、自治体DXの実績を数多く有する株式会社チェンジホールディングス(以下、チェンジホールディングス様)の一員である、株式会社ガバメイツ様(以下、ガバメイツ様)のソリューションを活用しています。チェンジホールディングス様とは、2022年に自治体DXの推進に関して連携協定を結んでいる縁から、ガバメイツ様も含め、みんなで「ぜひ一緒にやりましょう」という話になりました。
Cap)写真左:和田川ダム/写真右:富山県国際健康プラザ
応募の際に我々が提案したのは「建物施設の点検・メンテナンス作業」でしたが、「Digi-PoC TOYAMA」事務局の方から「土木インフラについてもやってみないか」というお話をいただき、和田川ダムと富山県国際健康プラザの2か所で実証実験を行うことになりました。
自治体には、建物のほか道路や公園、橋梁、そしてダムなど、さまざまな施設・インフラがあり、それぞれDX化の推進は不可避だと思われます。そのためご提案いただいた「土木インフラ」は、我々にとって新しい挑戦でしたが、多くの学びを得る機会になりました。
使いやすく、役立つシステムでなければ、導入する意味がない
-齊藤氏:
この実証実験では、スパイダープラスが開発・提供している、施設の維持管理向けの機能「S+Maint(エスプラスメンテ)」「S+Report(エスプラスレポート)」を、実証先のニーズや業務内容・フローに適した形にカスタマイズいたしました。それらを実際の作業の中で利用してもらい、その後、業務の変化についてのアンケートにご回答いただくという流れになります。
――――――
S+Maint
インフラ・建物施設の管理者、点検作業者の点検・不具合管理関係者が利用できるメンテナンスサービス
S+Report
紙の帳票記録をデジタル化することにより、現場のペーパーレス化を実現し、入力作業の手間・管理コストの削減を可能とするSPIDERPLUSの新機能
――――――
「我々のサービスや培ってきた知見は、インフラの分野でも絶対に活かせる」という仮説を持っていたのですが、これまで関わってきたところとは少し遠い領域でしたので、果たしてニーズやソリューションがマッチしているのかという疑問がありました。今回、こうして「Digi-PoC TOYAMA」の実証実験プロジェクトという形で、その仮説を検証する機会を得られたのは、大変価値のあることでした。
-廣瀬氏:
「S+Maint」「S+Report」のカスタマイズのために、和田川ダム、富山県国際健康プラザのご担当者様に何度もお話を伺い、実際の点検作業にも同行しました。特にダムについては知らないことばかりでしたので、1から教えていただくことが色々とありました。それでも皆さん、嫌な顔ひとつせずに丁寧に回答してくださって、心から感謝しています。
ヒアリングのときに、和田川ダム管理事務所の杉森所長代理が「DXを導入するとやり方が変わるから、最初はそれを面倒だと思って嫌がる人もいるかもしれない。でも、以前より良くなった、改善されたと思われれば受け入れてもらえるだろう。反対に、導入のメリットが感じられなければ、それは意味のないものと思われてしまう」とおっしゃったことが、頭に残っていて。作業する皆さんが使いやすく、そして役立つシステムにするにはどうしたらいいのか、その答えを見つけたい一心でたくさんの質問いたしました。
働く人のウェルビーイングにつながるDXソリューションを
-齊藤氏:
我々は「“働く”にもっと『楽しい』を創造する」というミッションのもと、建設業界を中心にDXサービスを開発・提供してきました。業務の負担の軽減、効率化、迅速化に貢献するDXソリューションは、働く人のウェルビーイングにつながるものだと考えます。
スパイダープラスとしても今後はさらに業務領域を広げ、より多くの皆さんの『楽しい』を創造するために励んでいくつもりです。
【実証実験レポート】
公共施設の各種点検業務や不具合管理をデジタル化し、報告書作成時間や管理者と作業者の情報共有コストを削減することにより、技術職員の負荷軽減と措置対応速度の改善度合いを検証します
[実証実験A 和田川ダム]
<実証実験 ご担当者>
富山県和田川ダム管理事務所
所長代理 杉森英之様
技師 能松大樹様
(https://www.pref.toyama.jp/kendodukuri/shinrinkasen/kasen/wadagawa/index.html)
cap)画像は「点検一覧」管理画面
和田川ダム管理事務所の杉森様、能松様へのヒアリングをもとに、月に1回行われる警報局舎点検、湖面パトロール点検、水路工作物点検に関する点検項目を設定し、点検帳票への出力をカスタマイズ開発。実際の点検作業に利用していただき、毎月のアンケートに協力していただくことで、効果測定を行います。
cap)画像は「点検項目表」ページ
点検業務では、技師がデジタルデバイスを持って、予備発電機、艇庫、監査廊など点検箇所を順番に回っていきます。問題の有無を確認し、「○」「△」「×」の3段階で評価し、状況についてコメントを加えることもできます。最後にデバイス内蔵のカメラで撮影をして、その箇所の作業は終了。次の点検箇所に移動し、同様に点検を行います。
-廣瀬氏:
ヒアリングの際、点検にも同行させていただきましたが、点検のときに使っていた紙の帳票に書かれている順番と、点検作業の順番が一致していなかったのです。そこで、サービス画面上では実際の作業の順番と同じになるようにカスタマイズしました。「使ってよかった」と思ってもらうためには、できるだけ日々の業務に馴染むようなサービスにすることが大切だと思ったのです。
–能松氏:
画面をそのままスクロールしていけばいいだけなので、これまでと比べて、とても使いやすくなりました。細やかな配慮に感謝しています。
これまでの点検作業は以下の流れです。
- 点検票を印刷。手にデジカメを持って、点検しながら撮影し、全部回ったら事務所に戻る
- 撮影画像をパソコンに移し、点検表とは別の写真帳に貼り付けて、どの場所かコメントを書き入れて印刷
- 報告書を作成
事務所に戻ってきてからの書類作成には、最低1時間かかります。ですが、このサービスを導入することによって、書類作成にほとんど時間がかからなくなるので、1時間程度は短縮できるようになり、大きな成果だと思いました。
-杉森氏:
効率化だけでなく、即時性という視点においてもこのサービス導入の大きなメリットを感じています。今日も点検作業の内容をタブレットでリアルタイムに見ていました。決裁についても、紙を順番に回してハンコを押すのとは違い、全員がすぐに報告を確認できますので、大幅な時間短縮になります。
2024年元旦に能登半島地震がありましたが、あのときも発電が止まり、臨時点検を行いました。安全が確認できるまで発電を再開することはできませんので、まさに1分1秒を争うような状態でした。このサービスがあれば、あのときのような非常事態でも迅速な報告、決裁が可能になるということは非常に大きな意味があると感じています。
-福本氏:
和田川ダムの実証実験でうれしかったのは、杉森様や能松様をはじめ皆さんがサービスを使いながら「ここはこうした方がいいかもしれない」とアドバイスしてくださることでした。現場での気づきを伝えてもらえるのは、システムをより良いものにするのに本当に価値のあることですし、なんといっても、我々にとって大変励みになりました。
[実証実験B 富山県国際健康プラザ]
<実証実験 ご担当者>
公益財団法人富山県健康づくり財団
富山県国際健康プラザ 事業推進課 副主幹 谷崎修一
https://www.toyama-pref-ihc.or.jp
株式会社ホクタテ
ビルメン事業本部 BM部 部長 若島英幸様
ビルメン事業本部 BM部 推進役 志戸岡誠様
ビルメン事業本部 BM部 水上拓也様
https://www.hokutate.co.jp
Cap)写真左:浴槽の塩素濃度測定/写真右:プール水温確認
cap)画像は「塩素濃度測定 デジタル入力」ページ
富山県から富山県国際健康プラザの指定管理業務を委託されている公益財団法人富山県健康づくり財団様(以下、富山県健康づくり財団様)の谷崎様、そして富山県健康づくり財団様から点検管理業務を委託されている株式会社ホクタテ様(以下、ホクタテ様)の若島様、志戸岡様、水上様へのヒアリングをもとに、塩素の濃度測定、空調・給排水機器点検、不具合管理業務の一元管理をデジタル化。予防保全効果や情報共有コストの変化について、アンケートをとり、効果測定を行います。
cap)画像は「不具合詳細内容」ページ
cap)画像は「不具合一覧」ページ
点検業務では、技師がデジタルデバイスに必要事項を入力。不具合管理業務では、不具合の要因、緊急度、復旧対応の進捗状況をタブで選んで入力。詳細については書き込むこともできます。またデバイスで撮影した画像はそのまま不具合管理の帳票に貼付されるようにカスタマイズされています。
-福本氏:
富山県国際健康プラザの管理については、県から富山県健康づくり財団様が受けていて、さらに点検作業についてはホクタテ様が受けるという状況であるため、手順が少し複雑で、何度もヒアリングを行いました。
ガバメイツ様の業務フロー管理のソリューション「GovmatesPit」に、伺ったお話や業務手順書の内容を打ち込み、業務量、業務フローの可視化をし、さらにお話をうかがって改良を重ね、帳票を作りました。
Cap) 画像はGovmatesPitのページ
実際に行われている業務の流れには、通常のルートはあるものの大変複雑で、それをDXに落とし込む際には、どこかを省いて単純化しつつも、漏れのないようにしていかなくてはならないので、かなり難航しました。
-水上氏:
今までは口頭や書面での報告でしたが、このサービスを使ったことでタイムラグがなくなり、クライアントはもちろん、誰でも、必要なときにどこからでも情報にアクセスできるようになりました。本当に便利ですね。
-志戸岡氏:
施設員にはシニアの方もいるので、タブレットの入力にはまだ少し時間が取られていますが、慣れていけば大丈夫と思えるくらい、直感的に使うことができます。入力もタブで選ぶのがほとんどなのでとても楽です。特に、写真をタブレットで撮影してすぐ共有できるのは、現場の様子が一目で伝わるので良いですね。
-谷崎氏:
報告の迅速化という意味でも、このサービスは優れていると思いますが、とても見やすくできているのが良いですね。例えば不具合の復旧状況はステータスごとに色分けしてあるので、一目で判断できます。またキーワードを入れると、情報がすぐ抽出できるので、過去に起きた問題もすぐ確認できるので、時間と手間がかなり省けるはずです。
-若島氏:
我々は維持管理、日常運転管理のほかに、予防保全的な管理も求められていますので、例えば突然、設備が故障停止になる前に、日常運転記録から未然に異常を察知して、修繕などのメンテナンスが行えるような視点で、データを活用していけたらと思っています。
実証実験の成果を核に、施設管理における自治体DXを広くサポートしていきたい
今後の課題や展望について、尋ねたところ
「紙ベースの管理では、どうしても報告にタイムラグが生まれてしまいます。緊急時はもちろんですが、施設状態をリアルタイムで把握できる方が何かあったときの情報連携が取りやすいですし、過去の記録をすぐ検索できれば、経験の浅い人でも判断がしやすく、意思決定のスピードも上がると考えられます。広く利用してもらえるサービスになるよう、今回の実証実験の成果を活かしていきたいと思います。またスパイダープラスの既存の事業で一番大きなものとして、工事で使える施工管理サービスがありますが、メンテナンスとうまく連携して、施設の点検と修繕工事までを一元管理できるようなシステムにも、将来的には対応していきたいです」と廣瀬氏。
「今回の実証実験でインフラ管理やメンテナンスで使っていただいたことで得られた成果を核にして、自治体の有するさまざまな施設管理のDXに貢献していきたいという気持ちです。そして遠大な未来の計画としては、ダムといった河川のインフラ、道路、橋梁の検査・メンテナンスの分野でサポートできるようになれればと考えています」と福本氏。
「ダムの場合は位置が固定的なので違うのですが、道路や橋梁のメンテナンスでは地図との連携が大変重要で、そこの機能がまだ我々のサービスには足りていないのが現状です。今後はマップ機能をつけて、対応できるインフラの種類が増やせるようにしていきたいです」と話す齊藤氏。
DX化によりさまざまな施設やインフラの管理がより良いものとなる未来が、確かに感じられる実証実験でした。