実証実験レポート

【2023年度】業務のDX化が拓く、スマートなコミュニケーションと幸福を実感できる社会(株式会社インテック)

【インタビュー対象者】
株式会社インテック
宮川 忠彦様 部長 CIVIONソリューション部
細川 幸扶様 CIVIONソリューション部
市田 越子様 ビジネスイノベーション部
菊 智子様 CIVIONソリューション部
本田 有咲様 行政システム営業部

https://www.intec.co.jp/

株式会社インテックは、IT技術を活用し、業務のDX化や働き方改革に取り組んでいる企業です。地方自治体へのサービス提供を行うなかで、自治体職員の働き方における課題や問題を見つめてきました。そこで今回、テキスト、音声、画像など複数の情報を統合して処理できるマルチモーダルAIを活用した業務効率化支援を行うべく、「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)実証実験プロジェクト」に参加。その成果や今後の展望について、株式会社インテック(以下、インテック)宮川氏、細川氏、市田氏、菊氏、本田氏にお話を伺いました。

マルチモーダルAIを使った業務効率化を目指し、実証実験に参加

–本田氏:インテックは今年で創業60年を迎えます。創業以来、富山県内外の地方自治体様へ継続してIT分野での各種サービスをご提供しています。DX推奨のためのサービスも提供しており、そのつながりの中で、「Digi-PoC TOYAMA実証実験プロジェクト」の存在を知りました。実は昨年度の実証実験プロジェクトにも興味があり、応募していたのですが採択に至らず、今回2度目のチャレンジでした。

そして2023年、テキスト、画像、動画など複数の情報源からデータを収集して総合的に処理する「マルチモーダルAI」の技術を開発し、活用先を検討していた頃、「Digi-PoC TOYAMA実証実験プロジェクト」のテーマに「自治体業務の効率化・働き方改革推進」があることを知りました。社内にもこの実証実験に興味を持つメンバーが複数名いましたので、体制を組んでやってみたいと社内向けに声をあげたのがきっかけです。

–宮川氏:
もともと我々は、チャットGPTや生成AI技術の開発・運用にも取り組もうとしていたところでした。今ほど本田の話に出た「マルチモーダルAI」と、これまで培ってきたチャットGPTなどの技術を組み合わせて何かできないかと模索していた頃だったかと思います。「Digi-PoC TOYAMA実証実験プロジェクト」の中で今年度から追加された「自治体業務の効率化・働き方改革推進」というテーマに興味を持つメンバーも多く、それなら参加してみよう。富山県と一緒に新しい取り組みをするような機会は我々にとってもチャンスであり、チャレンジになると考え、応募させていただきました。

膨大な書類の管理をDX化することで業務へのアプローチを改革

–菊氏:今回の実証実験のご提案としては、自治体職員の皆さまの業務の中で活用していただくこと、働き方改革に寄与することを目的としています。そのため、まずは視覚・聴覚などの五感を使った判断をできるようなマルチモーダルAI分野を研究したうえ実用化を目指している部門と協力し、生成AIを活かし、自治体業務のDXとして活用できることを模索していくところからスタートしました。
その中で「書類DX」として、書類をデータ化してそれらを「検索」から見つけるということに絞り込んでいきました。

一般的に、人が書類を探すとき、まずはその書類がどこにあるのかを考えます。例えば、フォルダの中にあるものであれば、どこのフォルダなのかを探します。その次にどのファイルなのか、ファイルの何ページのどこに書いてあるのか、順を追って探すことを繰り返しながら、人は頭の中で「どうすればいいのか」を構築して手順化していくのです。しかしながら、自治体職員の皆さんはその他の業務と並行しながらやっていくわけですから、簡単なことではありません。そうであれば、そこをDX化する方法はないのか?「一度にこれを探したい」という指示から、結果を検索できないのか?これらが実現することで、業務の効率化につながるのではないかと考えました。

また、今回の実証実験の大きなポイントは、単純なテキスト文書のデータのみを対象とするのではなく、画像や写真からも情報を抽出し、情報化して検索できるというところ。その中で、引き出した情報をさらに活用することも見据え、「書類のデータ化」「データ検索」「データの活用」という三本柱の実証実験を行っています。

セキュリティ環境の構築から書類の形式まで
一つひとつを丁寧に検証

–市田氏:実証実験を進めるにあたって、社内の様々な部門から専門分野を持っているメンバーを集めて体制を構築しました。今回Azure(※)の基盤を使っているのですが、そういった技術に知見のある者、AI技術が得意な者、自治体の業務に詳しい者など10名程度参画しています。
※)マイクロソフト社が提供するクラウドプラットフォーム(サービス)のこと。

–細川氏:
今回の実証実験では、県庁内のデータを利用した生成AIの活用が求められました。県庁内のデータを扱うにあたっては、クラウド環境を含むセキュリティ面の考慮が不可欠でした。セキュリティ面の考慮にあたっては、社内のセキュリティ担当部門やクラウド構築に特化した部門からもアドバイスをもらいながらAzure環境の構成を検討し、ユーザーの認証方法やサービスのセキュリティ対策について認識合わせをしながら進めていきました。

検索対象とする書類については、適当にいろんな書類を読み込ませても検索精度が落ちるため、お客様と相談してユースケースや資料を絞って、プレスリリースの資料を採用することにしました。資料はテキストのみ資料だけでなく、写真や図が入っているものを用意していただき、このパターンは向いている、このパターンは向いていないなど、さまざまな書式の検証を行いました。例えば、横書きではなく縦書きの文書だと少し不向きであるなど、そう言った切り分けです。

もっとも苦労した点は、「実際の書類を読み込んでみないと検索精度が測れない」ということです。その辺りは、検索の方法や内部的な検索の仕組みを都度チューニングしながら、トライアンドエラーを繰り返し、検索精度を高めていきました。

–市田氏:もともとインテックの研究所で開発していたマルチモーダルAIと生成AIによる書類DXの仕組みがありましたので、それを活用しました。今回の実証実験用に新しく用意したAzure環境にシステムを構築し、データ活用の事例に合わせたユーザインタフェースの作成や検索のチューニングを行いました。技術検証のフェーズも含めると約4ヶ月かかりました。実証実験なので一つのユースケースに絞った検証ではなく、さまざまな角度から評価する必要がありましたので、トライアルという側面も含めて検証しました。具体的には、テキストのみの文書だけでなく、紙をスキャンしたようなデータや画像を多く含むパンフレット、図やグラフが記載されている資料などさまざまな書式を読み込ませて、どのくらい読み取りの精度が出ているかを検証しています。

先ほど、菊からも説明があった「書類のデータ化」「データ検索」「データの活用」の具体的な活用事例を一つ紹介させていただきますと、広報課の「YouTubeのシナリオ作成」が上げられます。「データ検索」を活用してシナリオのもととなる資料を検索します。そして、「データの活用」というところでは、検索した資料をもとにYouTubeのシナリオの作成を行っています。

業務のDX化や働き方改革により大きな成果を

–菊氏:今回の実証実験では、マルチモーダルAIを使った機能検証がメインですが、お客様に使用していただくことを想定したセキュリティ構築も実施しています。実際のユースケースを考えて、費用対効果が出てくるのはどのあたりなのかを話し合った結果、「書類の検索」という側面ではある程度の成果が出ており、一度に書類を探せるというとことでは評価をいただきました。

しかし、業務のDX化や働き方改革という側面では、まだまだです。今回の実証実験では一部の対象部門様にご協力いただいて検証を実施したのですが、お客様としては今回使った機能を横展開していき、さらに成果を上げたいという想いがあります。また、「書類DX」が今よりもっと浸透していき、その前後の業務も含めた「業務全体のDX」も展望として考えていらっしゃることが見えてきたので、我々としては今後も業務全体のDXをバックアップしていきたいと考えております。

他にも、今回は文書や画像がメインの検証となりましたが、お客様からは将来的に「映像」や「音声」も対象となり、動画を作成できるところまでいけると嬉しいです、というご要望もいただいております。

業務DXを通してスマートなコミュニケーションを創出していきたい

–宮川氏:「Digi-PoC TOYAMA実証実験プロジェクト」のサブタイトルにも掲げられている「ウェルビーイングな世界を拓く」。この「拓く」という言葉には、今までになかった幸福感を県民一人ひとりが実感できる世界を目指すという大きなメッセージを感じています。我々はそこに共感し、富山県と一緒に目指したいと考え、この実証実験に参加させていただきました。

今回の実証実験で検証してきた「書類DX」は、自治体職員の皆さまの業務改革を目的としたものです。しかし、業務改革というのは単純な時間削減だけを意味するものではありません。ただ効率化を目指すだけでなく、その過程や多彩な結果の創出に充実感が加わること、お互いにスマートなコミュニケーションをとれるようになることで、良い人と人のつながりを生み出すことができると思います。それは、自治体業務に関わる方々の幸福実感につながり、富山県の目指す「ウェルビーイングな世界」につながるのではないでしょうか。

本プロジェクトに関わっている主力メンバーはインテックの従業員であるとともに、富山県民です。富山県の住民としても県の職員の皆さまと一緒に「ウェルビーイングな世界」を目指す、一部を担っているということは我々の充実感にもつながっていると感じています。