実証実験レポート

【実証レポート】衛星画像活用で中山間地域における農地の現地調査を大幅効率化!(株式会社ネスティ)

「Digi-PoC TOYAMA」において、富山県が抱える地域課題のテーマの一つとして、「中山間地域における農地現地調査の効率化」に向けた実証実験プロジェクトが募集され、株式会社ネスティが受託、現在実証実験に取り組んでいます。
本プロジェクトでは、富山県立大学が衛星画像解析の共同研究、株式会社インテックが富山データ連携基盤の活用でタッグも組んでいます。 

今回は、株式会社ネスティ×富山県立大学×株式会社インテックが挑む「中山間地域における農地現地調査の効率化」に向けた実証実験について、インタビューを行った内容をお届けします‼   

◆実証実験取り組みの背景 

株式会社ネスティのインタビューに先立ち、富山県が抱える地域課題の一つ、「中山間地域における農地現地調査の効率化」について、担当課である富山県農村振興課・井上氏と江蔵氏に、本実証実験についての思いや株式会社ネスティの取り組みへの期待について伺いました。  

富山県農村振興課 井上氏・江蔵氏コメント  

中山間地域等直接支払制度の適正な運用において、対象農地の現地調査が不可欠ですが、市町職員等の事務負担の軽減と効率化を迅速に進めていく必要があります。
株式会社ネスティ様には、衛星画像の解析や現地確認用アプリなどのデジタルソリューションを活用し、現地確認対象の農地を大幅に絞り込みなど、現地確認事務の省力化・効率化手法の開発・実証に取り組んでいただきました。
この成果が多くの自治体で活用できるよう、より汎用的かつ低コストで活用が可能なサービスにブラッシュアップしていただけることを期待しています。 

◆今回のインタビュー対象者 

株式会社ネスティは、衛星画像の活用により、中山間地域等直接支払制度の協定圃場における現地確認作業の効率化を図ると共に、富山データ連携基盤を活用したコスト削減を実現すべく、実証実験をスタートさせました。
福井県に本社を構える株式会社ネスティは1983年設立のIT企業です。「人と人を技術で結ぶ」を理念として、各種システムの開発・販売を行っていますが、近年では「衛星データを現場の力に」をコンセプトとして衛星データを活用したソリューション開発にも力を入れています。
今回の「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)実証実験プロジェクト」で、富山県の中山間地域における農地現地調査の効率化に向けてどのような挑戦をしているか、ネスティの越川氏と白數氏にお話を伺いました。

(写真)左から、ネスティ:土田さん、越川さん、小林さん、白數さん、山西さん、五十嵐さん

◆ Digi-PoC TOYAMA 実証実験プロジェクトについて 

―――今回「Digi-PoC TOYAMA 実証実験プロジェクト」に応募された経緯を教えてください。 

弊社は、衛星データを活用して行政業務における課題解決を支援するソリューションを提供しており、さまざまな分野で衛星データ利活用に取り組んできました。そうした取り組みの中で、中山間地域等直接支払制度における現地確認業務への衛星データ活用を富山県にご提案したところ、導入を検討するには業務量の削減効果や費用対効果を客観的に示す必要があるという課題が生じました。そんななか、「Digi-PoC TOYAMA」への応募をご提案いただき、効果検証の機会として今回応募しました。 

◆実証実験内容について 

―――今回貴社が取り組まれている実証実験の内容について教えてください。 

衛星データを活用した現地確認作業の省力化については、農林水産省からマニュアルが公開されていますが、記載されている手法では削減効果は約5割程度にとどまっています。そこで、マニュアルをベースに、富山県立大学と共同で新たな解析手法の開発に取り組み、現地確認作業量の「8割削減」を目指します。一方で、衛星データで現地確認を完全になくすことは難しく、一定の現地作業はどうしても残ります。そうした現地作業についても、タブレットアプリを活用することで、業務の効率化や課題などを検証します。また、システム導入時にはコスト面の課題については、株式会社インテックが整備した「富山データ連携基盤」を活用することで、既存環境を有効に使い、導入コストやランニングコストの削減を目指しています。 

(画像)開発した中山間地域等直接支払制度用の現地確認アプリ

◆これまでの実証実験の成果について 

―――これまでの実証実験の成果としてはどのような感じでしょうか? 

共同開発した新たな手法で解析した結果、目標の削減率を上回る結果を出すことができました。また、タブレットアプリ活用については中山間地域等直接支払制度向けのプロトタイプ版を開発し、実際に操作いただいたところ、現場での使いやすさや業務効率化の観点から高い評価をいただきました。あわせて具体的な改善案も多数頂戴しており、今後のアップデートに反映していく予定です。さらに、「富山データ連携基盤」を活用した場合のコストシミュレーションを行った結果、県内で導入自治体が増えることで、導入コスト・ランニングコストの双方を抑えられる可能性が高いことが分かりました。

一方で、課題も見つかりました。田んぼの場所や形状を表す地図データが整備されていない場合、解析やタブレットアプリで扱うことができず、ソリューションの効果を十分に得ることができません。また、衛星データ活用への不安といった課題も明らかになりました。これらについては、データ整備に対する予算化支援や自治体内でのデータ共有の実現、新技術を利用に対する周辺の理解や基準の設定などが求められると感じています。これらは本実証で得られた重要な成果と捉え、解決に向けて取り組んでいきたいと考えています。 

 富山県立大学、株式会社インテックとの連携について 

(写真)左から、富山県立大学:加藤さん、河崎助教、インテック:田中さん

  • 衛星画像解析における富山県立大学との共同研究

本実証実験プロジェクトでは、衛星画像解析の共同研究を富山県立大学と行っています。富山県立大学の河崎助教と修士2年生の加藤さんにもお話をお伺いしました。 

―――ネスティさんと共同研究に取り組まれた経緯を教えてください。 

地域における衛星データ活用のニーズや課題を把握するため、Digi-PoC TOYAMA の事前説明会で農村振興課へヒアリングを申し込むために並んでいたところ、偶然にも私たちの前にネスティさんがいらっしゃいました。

さらに面白いことに、説明会前に会場近くのカフェで作業していた本学の加藤くんと、ネスティの越川さんが、コンセントの貸し借りをきっかけにすでに軽く言葉を交わしていたことが判明しました。会場の列で改めて自己紹介を交わす中で、「目指している方向がとても近い」ことをお互いに実感でき、その後あらためて両者の知見や強みについて深く議論を行いました。そうした自然なつながりと共通する課題意識から、今回の共同研究がスタートしました。 

―――衛星画像解析で一番苦労した点は何ですか? 

最も苦労した点は判別手法の検討です。解析結果を現場で安心して使ってもらうためには、精度だけでなく運用のしやすさも重視する必要がありました。そのため、農林水産省が公開している既存の衛星による現地調査マニュアルを参考にしつつ、対象である富山市の地域性や季節性に合わせて内容を整理し、作成しました。 

  • 富山データ連携基盤の活用における株式会社インテックとの連携

本実証実験プロジェクトでは、株式会社インテックと富山データ連携基盤の活用にも取り組んでいます。株式会社インテックの田中さんにもお話をお伺いしました。 

―――まず、富山データ連携基盤について教えてください。 

富山県と県内市町村、住民で様々なデータの収集・共有・活用するための基盤として富山データ連携基盤が構築されました。この基盤では河川に設置した水位センサーから計測データを収集し、マップ上に他データ(気象庁で公開している気象データやハザードマップ等)とあわせて表示し、収集したデータをAPIで他システムに連携することができます。  

―――データ連携基盤は、農地現地調査の効率化において、どのように役立つのでしょうか? 

データ連携基盤とネスティさんの現地確認アプリを連携することにより、マップ上で衛星画像と現地確認結果を重ねてマップ表示できます。
また、富山データ連携基盤では様々なデータを収集しているため、オープンデータとして公開されているハザードマップや収集しているセンサーデータ等と圃場の状況をマップに重ねて表示することも可能ですので、農地現地調査以外の観点での課題発見や対策検討にも役立つと思います。 

(画像)データ連携基盤出力イメージ

◆現在感じている課題とその解決策について  

―――皆さんの連携により、素晴らしい省力化の技術を実現されているのですね。全国への広がりも期待されるところですが、横展開にあたってはどのようなハードルがありますか? 

新しい技術や運用に対しては、ご不安を感じられると思います。また、予算化を検討される際には、他自治体での導入事例や実績が求められることも多いと認識しております。そのため、今回の実証実験を通じて明らかになった課題や懸念点について、一つひとつ解決に向けた取り組みを継続し、自治体の皆様に安心して導入をご検討いただける環境づくりを進めてまいります。 今後は、本格導入に向けた実績を着実に積み重ねることを目標とし、現場に寄り添った形でのソリューション展開に取り組んでいきたいと考えております。 

◆期待される成果と今後の展望について 

―――本プロジェクトを通じて、富山県における農地等の現地調査にどのような変化や効果を期待していますか? 

現地調査に多くの時間と労力を要し、本来注力すべき中山間地区の農業を守る取り組みに十分手が回っていない、という声をお聞きしています。また、人手に依存した運用は、人口減少が進む現在の社会状況を考えると、将来的に持続可能とは言い難いと感じています。

今回取り組んでいる、衛星データとタブレットアプリ、さらに富山データ連携基盤を組み合わせた「富山モデル」によって、こうした課題を解決し、中山間地域農業が将来にわたって持続可能なものとなることを期待しています。また、この取り組みが富山県の美しい里山を次の世代へと受け継いでいく一助になれば大変うれしく思います。 

◆現場で調査を行う職員の声 

本プロジェクトでは、実証フィールドとして、富山市農業振興課の皆さまにご協力いただいています。実際に農地の現地調査を行っている職員の方に、「現地確認アプリ」への感想や本実証実験プロジェクトへの期待をお聞きしました。 

 

<現場職員の声> 

富山市農業振興課:川合氏 

―――実際に「現地確認アプリ」を利用してみて、いかがでしたか? 

令和7年度は、一部の集落協定の交付対象圃場農地を地図上に表示し、その場所を職員で見て回る実証実験を行いました。従来の現地確認では、手書きのA0サイズの集落協定地図とカーナビの現在地を照らし合わせながら紙に圃場ごとの現状を記載しており、約2か月かけて協定内の農用地を確認していました。現在地と協定農用地が一緒に表示される「現地確認アプリ」では、従来での地図の読み間違いや、確認を行った圃場の記載間違い等が発生しづらくなるように感じられました。 

―――長期的な利用に向けた期待・要望を教えて下さい。 

試験的に利用させていただいた「現地確認アプリ」でも、省力化の手ごたえがありました。今後衛星写真による診断により、見て回る圃場数が減少しますと、より現地確認の省力化が見込まれます。減少した時間を集落協定の相談や確認作業に充てることができるようになれば、より市民に寄り添った行政を行えることが期待されます。 一方、まだ他の市町村での実績が少ない取組であるため、現地確認について今後どのような書類を残していけばよいのか、判断に苦慮しています。現状は富山市だけでの試験ですが、今後県内の他市町に波及していくためにも、衛星写真を含めた現地確認のガイドラインを作成していただくなど、県内での現地確認に対する共通認識の育成に努めていただければと思います。  

◆最後に 

―――「現地確認アプリ」は現場からも好評で、農地現地調査の効率化に大きく寄与できることがわかりました。今後ますますの発展が期待されますね!最後に本実証実験プロジェクトに対するメッセージや、今後取り組んでいきたいことについてお聞かせください。 

Digi-PoC TOYAMAを通じて、中山間地域等直接支払制度における現地確認作業について、大幅な省力化・効率化・標準化が十分に実現可能であること、さらにコストを抑えた形で導入できることを確認することができました。本実証にご協力いただいた関係者の皆様には、改めて心より感謝申し上げます。

今後は、今回得られた成果を 「富山モデル」 として整理し、全国展開を視野に入れて取り組みを進めていきたいと考えております。まずは第一歩として、富山県内での正式導入を目指し、実運用を見据えた形でソリューションの完成度をさらに高めてまいります。

また、地図データ整備や新技術導入に対する不安といった課題についても、自治体の皆様と連携しながらひとつひとつ解決に取り組み、「衛星データを現場に力に」定着させていくことを目標に、引き続き尽力してまいります。