【レポート】数時間単位で「就農」!求職者と農業事業者のマッチングにより就業機会を最大化、長期雇用の足掛かりに。(株式会社Matchbox Technologies)

「Digi-PoC TOYAMA」Program01において、富山県が抱える地域課題のテーマの一つとして、「農業の担い手確保」に向けた実証実験プロジェクトが募集され、株式会社Matchbox Technologiesが受託、現在実証実験に取り組んでいます。
今回は、株式会社Matchbox Technologiesが挑む「農業の担い手確保」に向けた実証実験についてインタビューを行った内容をお届けします‼
◆実証実験取り組みの背景
株式会社Matchbox Technologiesのインタビューに先立ち、富山県が抱える地域課題の一つ、「農業の担い手確保」について、担当課である富山県農業経営課・中村氏と押川氏に、本実証実験についての思いや株式会社Matchbox Technologiesの取り組みへの期待について伺いました。
富山県農業経営課 中村氏・押川氏コメント
富山県が抱える地域課題の1つは「農業の担い手確保」です。農業従事者の高齢化が全国よりも速く進行し、従事者の減少に伴う生産規模の縮小、県農業の衰退・消滅を危惧しています。その解決には、新たな労働力の確保、雇用導入による人材確保が必要と考えています。「富山あぐりマッチボックス」の開設によって、農業に興味を持つ方が短時間で働ける機会を設けることで、農業に携わりやすくなると考えています。まずは短時間の就業で農業の面白さを知ってもらい、これがきっかけとなって、新たな担い手が創出されることを期待しています。
左から
富山県知事政策局デジタル化推進室 木下氏、富山県農林水産公社 片山氏、富山県農林水産部農業経営課 中村氏、押川氏、農林中央金庫富山支店 橋場氏、富山県知事政策局デジタル化推進室 櫻井氏
◆今回のインタビュー対象者:株式会社Matchbox Technologiesについて
株式会社Matchbox Technologiesは、富山県全体で就農しやすい環境を整備することで、就農機会の最大化と農業事業者の働き手の確保を図り将来の担い手確保に繋げると共に、未来に残る「地域の就農インフラ」を構築すべく、実証実験をスタートさせました。
新潟県に本社を構える株式会社Matchbox Technologiesは、育児や介護などで固定勤務が難しい人々や、パート・アルバイトの働き方が多様化する中で、柔軟に働ける環境の整備を目指し、自治体や企業に対し、スポットワークシステムを提供することで、労働力不足の解消に貢献しています。今回の「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)実証実験プロジェクト」で、富山県における将来の農業担い手確保に向けてどのような挑戦をしているか、matchbox事業本部の山田氏と清水氏にお話を伺いました。
◆ Digi-PoC TOYAMA 実証実験プロジェクトについて
―――今回「Digi-PoC TOYAMA 実証実験プロジェクト」に応募された経緯を教えてください。
山田氏:北陸銀行新潟支店様からの紹介です。お話を伺い、「農業の担い手」というテーマに弊社のサービスが役に立つのではないかと思い応募しました。他自治体における実績はあるものの、県単位かつ一業種に特化するという試みは初であり、事業実現への不安はありました。一方で、農業という分野は興味を持っている方は多いと認識しており、弊社の提供する1日単位で就業できるサービスというのが合致するのではないかと考えました。
―――貴社のサービスが富山県の課題にマッチしていると考えられたんですね。では、富山県における農業の現状と、担い手確保における課題についてどのように考えていますか。
山田氏:富山県の農業は若年層の担い手不足が深刻な課題と認識しています。だからこそ若いうちから農業に触れる体験を増やすことが必要とされていますが、既存の農家は新しい挑戦に対して抵抗感が強いと感じています。高齢化が進む中で、若者の視点を取り入れ経営者の意識改革を図ることで、農業の活性化につながると考えています。
◆実証実験内容「富山あぐりマッチボックス」について
―――今回貴社が取り組まれている実証実験の内容について教えてください。
山田氏:「農業の担い手確保」の取組みの輪を拡げ、 富山県の就農者数増加を目的として、1日数時間単位で就農可能なマッチングサービス「富山あぐりマッチボックス」というプラットフォームの構築を行い、2024年11月1日にサービス開始しました。サービスの概要としては、以下の3点がございます。
- 1日数時間単位~長期雇用を前提とした体験就業まで、農業事業者様のニーズに合わせた求人募集が可能です。
- 一度採用した人を「自社メンバー」に登録可能。メンバーに求人案内を送ることで継続的な雇用が見込め、採用コストの低下も図れます。
- 活動状況をデータ化し、事業効果や地域の現状把握をして雇用支援策に活用可能です。
「富山あぐりマッチボックス」TOP画面
「富山あぐりマッチボックス」仕組みイメージ
富山県農業経営課が確認可能なBIツール画面
―――スポットの就業だけでなく長期雇用を見込んだ体験農業まで募集が可能なのですね。「自社メンバー」については、どのような効果を期待していますか。
山田氏:長期雇用が理想ですが、事情により正社員は難しいが空き時間に信頼できる場所で働きたい、という思いのある求職者は多いです。正社員という縛りがなくとも、事業者・求職者で繋がりが続いていく、フレキシブルながらも高度な関係性を構築できるツールとなれば嬉しいと思っています。
◆これまでの実証実験の成果について
―――これまでの実証実験の成果としてはどのような感じでしょうか?
山田氏:2024年11月1日のサービス開始以降、2025年1月末現在で登録事業者数112社、登録求職者332名と多くの方にご登録いただいております。また、約3か月で239件のマッチングが成立しており、サービス開始直後にもかかわらず非常に活発な動きを見せています。実証期間が冬季であるため求人数は年間の中では少ないですが、春季になると求人数も大幅に増加するため、さらなる盛り上がりが見込まれます。
◆現在感じている課題とその解決策について
―――農業となると従事者の高齢化の問題もあり、パソコン操作等は苦手にされている方も多いのではないでしょうか。
清水氏:説明会を実施した際に、アカウントや求人の作成まで、事業者様一人一人に対面でサポートしました。説明会後も対面・電話でサポートを行っています。DXを進めながらも、デジタルに不慣れな方に対してはフェイストゥフェイスでやれる仕組みをつくることが重要と感じています。
◆期待される成果と今後の展望について
―――本プロジェクトを通じて、富山県における農業にどのような変化や効果を期待していますか?
山田氏:事業者の人手・労働力不足の解消に加えて、農業の魅力というものが発信されることで、長期雇用につながり、持続的な農業の発展に貢献出来たらと考えています。 また、本サービスを通じて若い方が農業に携わることで、様々な意見が取り入れられ農業全体が高度化することも期待しています。 また、長期的には農福連携や、求人の少ない冬季の時期は農泊連携といったように、他業界との連携なども検討していきたいです。
◆実際の利用者の声
「富山あぐりマッチボックス」について、実際に利用されている農業事業者、求職者の方にそれぞれお話を伺いました。
<利用事業者の声>
株式会社みどりふぁーむ様
富山県南砺市の農業事業者
主要栽培作物:米(コシヒカリ、富富富、てんたかく)、新大正もち、大豆、白ネギ、人参 等
代表取締役 酒井氏、安達氏
―――「富山あぐりマッチボックス」を利用しようと思った理由を教えてください。
安達氏:富山県から案内が届いたのをきっかけに、砺波の説明会に参加しました。せっかく習ったので使ってみようと思い、その日の夜に求人登録を行ったところ、登録の2日後には掲載した求人に対し応募が来たので驚きました。その後も掲載した求人に対してコンスタントに応募が来たのでやってみてよかったと思っています。
―――登録後すぐに応募が来たんですね!使いやすさはどうですか?
安達氏:初めて求人登録をする際は清水さんに電話で操作方法を教えていただきました。1度求人を出してしまえばあとは同じ要領でやればいいので、2回目以降は自分一人で行えています。初心者でも使いやすいと思いました。
―――「富山あぐりマッチボックス」の今後の継続有無や、長期的な利用に向けた期待・要望を教えて下さい。
安達氏:今後も継続して利用していきたいと思っています。
酒井氏:「富山あぐりマッチボックス」がきっかけで若い学生さんが農業に関わってくれて、就農に繋がるような広がりを見せてくれたらいいなと思いますね。
<利用求職者の声>
富山大学医学部2年 吉田さん
―――どうして「富山あぐりマッチボックス」を利用しようと思ったのですか?
吉田さん:授業のない空き時間にアルバイトやインターンをやってみたいと思い、ネットで「農業 バイト」と調べたところ、「富山あぐりマッチボックス」を見つけました。アルバイトを探す際、高校時代の園芸の授業を思い出して、久しぶりに農業に触れてみたいと思ったのがきっかけです。
―――実際に農業の仕事をしてみてどうでしたか?
吉田さん:きゅうりの収穫のバイトをしたのですが、当初思い描いていた高校の園芸の授業のような体験ができました。当初は業務内容的に大変かなと思っていましたが、農家さんがすごく優しく業務を教えていただいたり、適度に休憩をはさんでいただいたのでとても良かったです。
―――農業の経験があまりなくても楽しく業務出来たんですね!「富山あぐりマッチボックス」の仕組みはどう思いましたか?
吉田さん:農業に興味はあるけれどもいきなり雇用となるとハードル高く感じる人もいると思うので、1日・時間単位で気軽に農業に触れられる仕組みはマッチしていると思います。実際Instagramのストーリーで紹介したところ、友達3人くらいから「興味がある」という連絡がありました。
―――「農業をやってみたい」と思っている若い方って実は多いのかもしれないですね!吉田さんは実際に「就農」してみて、将来の選択肢としての「農業」についてはどう思いましたか?
吉田さん:地域活性化という観点においての農業は興味があります。私は東京出身ですが、富山って魅力がたくさんあるのにそれを上手く発信できていない、活かし切れていない部分があると感じています。「富山あぐりマッチボックス」のようなサービスを通じて、富山県内外の若い人に農業だったりの地域の魅力が届けばいいなと思います。
◆利用者の声に対するフィードバック
―――利用者からのフィードバックをどのようにサービス改善に活かしていますか?
山田氏:ユーザビリティ、UI・UXの改善は常に追い求めています。多くの求職者・事業者様の声を活かしてブラッシュアップし、お客さまと共にマッチボックスも成長していきたいですね。
◆最後に
―――「富山あぐりマッチボックス」の実証実験プロジェクトは事業者・求職者共に好評で、順調にサービス展開していることがわかりました。今後ますますの発展が期待されますね!最後に本実証実験プロジェクトに対するメッセージや、今後取り組んでいきたいことについてお聞かせください。
山田氏:「富山あぐりマッチボックス」を通じて、富山県の課題解決の一助になれるよう尽力していきたいと思っています。
清水氏:私は富山県外の出身・在住ですが、本プロジェクトを通じて富山県の農家の方のやさしさ、あたたかさに触れました。農業の魅力はもちろんですが、それ以外の良さも富山県内外に広めていきたいです。富山県の農業の取り組みについて、他県にも知られるようなお手伝いが出来たら、と思っています。