【現地レポート】「避難所チェックイン×備蓄管理」実証実験が本格始動

―13自治体60名超が視察、50名の協力者が実際にシステムを体感―
■大規模震災の教訓から始まったDigi-PoC TOYAMAの挑戦
2024年1月20日、富山県射水市で「避難所チェックインと備蓄管理を連携させたシステム説明会と実証実験」が行われました。これは、2024年1月1日に起きた県内大規模地震の教訓を踏まえ、“避難所の受付”と“支援物資の配分・備蓄管理”をスムーズにつなげる目的で企画されたものです。
今回の実証には、11自治体・60名以上の関係者、そして50名の実験協力者が“避難者”役を担う形で実際の運用を体験。現場には多くの報道機関が取材に訪れ、注目度の高さを伺わせました。
画像:多数の参加者と各市町からの視察者
■実証実験の様子:避難者“チェックイン”から備蓄管理まで一元化
今回のデモンストレーションでは、“避難所受付”の段階でスマートフォンやタブレットを用いて簡単に個人情報を登録し、そのデータが即座に備蓄管理システムへ反映される仕組みが紹介されました。
画像:開発したシステムの概要
画像:チェックイン実証の様子
受付担当者がスマホ画面を操作すると、**「○○避難所の現在避難者数:○○人」**といった情報がリアルタイムで更新され、その人数に応じて「毛布」「飲料水」「簡易ベッド」などの支給目安が一覧表示されます。
受付の流れは以下の通りです。
- スマホやタブレットでQRコードを読み取り
- 画面案内に従って氏名や人数を入力(マイナンバーカードとの連携も検証)
- 送信完了と同時に避難所側の管理者画面が更新
- 最新の避難者数に合わせた備蓄品の在庫状況を確認
特に、スマホを使ったチェックインが思いのほかスムーズに進み、協力者の多くが「避難所での混雑を減らせそう」「紙での受付より早い」と好印象を示していました。一方で、中には「実際の大災害時に通信環境が整わなかったらどうなるのか」という質問もあり、今後オフライン対応や認証プロセスの簡略化が課題となりそうです。
画像:押し寄せる市民想定の参加者
■開発者の声:導入効果に期待とさらなる改良要望

射水ケーブルネットワーク 取締役 事業本部長 渡邊正樹
Q:今回のプロジェクトに参加した経緯を教えてください。
A: もともと地元メディアとして射水市とは議会中継や広報番組制作、ここ数年はIoT、DX関連などで関わりがありました。能登半島地震の際に「メディアとして被災情報を伝えるだけでなく、避難所の運営にも何か役立つことはできないか」と考えたのがきっかけですね。応募前は、マイナンバーカードを“ピッ”とかざせば一瞬で情報が出てくるイメージを抱いていたのですが、実際の認証には必要な項目が多く、スマートフォンでの操作も想定以上に時間がかかることがわかりました。
画像:チェックインパターンの整理
Q:実際に実証実験を進める中で苦労した点はありますか。
A: 当初はパソコンを使う前提で考えていたのですが、避難所での実態はスマホ対応が必須ということで想定を変更しました。大規模災害時には職員がスムーズに集まるとは限りませんから、現場の少人数でも扱いやすい仕組みが求められます。その分、システムの簡易化やUI(ユーザーインターフェース)の配慮が課題ですね。
Q:今後の展望を教えてください。
A: やはりコスト面をどう抑えつつ運用していくかが大きなテーマです。平常時には費用を最小限にとどめ、災害発生時に使った分だけの料金体系を検討できればと考えています。一年ほどかけて、より実用的で持続可能な形を探りたいですね。

射水市 防災・資産管理課 課長 高橋 秀和
Q:震災を経て、どのような課題を感じましたか。
A: 今回の一月の地震は、当市として初の大きな震災でした。休日だったこともあり、避難所の担当職員がすぐに駆け付けられなかったり、支援物資が十分行きわたらなかったりと、運営上の問題が浮き彫りになりました。そこで避難者受付と備蓄状況を一元化し、速やかに支援物資を配分できるシステムへの期待が高まったんです。
Q:実際にシステムを導入してみての印象をお聞かせください。
A: 正直、最初は不安が大きかったのですが、射水ケーブルネットワークさんや他の関係者の協力もあって、何とか形になりつつあります。エクセル管理だった備蓄情報を一括で把握できるメリットは大きいですね。今後は、一斉に多くの人が押し寄せても混乱なく受付が進むかどうかなど、現場での運用テストを重ねる必要があると感じています。

日本オープンシステムズ
クラウドサービス部 部長 帯刀 達志
クラウドサービス部 システム開発2課長 津田 育宏
クラウドサービス部 チーフエンジニア 栃澤 翔一
Q:開発支援をするにあたり、どのような視点を大切にしましたか。
A: まずは「現場で本当に動く仕組みであること」が重要です。大きく壮大なシステムを作っても、災害時に使いこなせなければ意味がありません。そこで避難所を実際に見学し、職員の動線やスマホでの操作状況など、実運用を想定したシミュレーションを繰り返しました。職員が少数で運営にあたる状況でも、誰もが扱いやすいUI設計を目指しています。
Q:今後の改良ポイントはどんなところでしょう。
A: 大人数が短時間でチェックインしても耐えられるサーバー負荷への対応、入力項目のさらなる簡略化、通信が不安定な状況下でのオフライン対応などが挙げられます。今後の実証実験で見えてくる課題を一つずつ洗い出し、実際の災害現場に合ったシステムへブラッシュアップしていきたいですね。

富山県知事政策局 デジタル化推進室
デジタル戦略課長 長岡 憲秀
DX推進担当 副主幹 木下 秀俊
DX推進担当 主事 櫻井 築
Q:県としては今回の実証実験をどのように受け止めていますか。
A: 1月に地震が起きた直後から、こうしたデジタル技術を使った実証実験が素早く立ち上がったことは非常に大きいです。射水市だけでなく、県内他の自治体も興味を示しています。県としても、本当に現場で使いやすいシステムに仕上げてもらえれば、全県的に拡張していく可能性は十分あると考えています。
Q:県全体で進める上でのポイントは何でしょう。
A: 災害時はどうしても現場が混乱するので、シンプルに「誰が何をやるか」が明確であることが大切です。また、平常時のコスト負担が大きいと導入が難しくなりますし、災害時に使い始めてから思うように動かないという事態は避けたい。そこのバランスを取りながら運用していくモデルを、県と市町村が連携して作り上げていきたいですね。
■今後の展望:課題解決で“備え”をアップデート
今回の実証は「大きな一歩」であると同時に、多くの課題も浮き彫りとなりました。災害時にアクセスが集中した場合の通信負荷や、マイナンバー認証のスピード、オフライン環境下での利用など、自治体や地元メディア、開発企業が協力して取り組むべきポイントが数多く存在します。
画像:中央監視システムの簡易想定
しかし、「受付から備蓄管理までリアルタイムで連動させる」という新しいスタイルは、今後の防災の在り方を大きく変える可能性を秘めています。今回の50名規模の“避難者”役を交えた実証実験によって、より具体的な運用シミュレーションが得られたのは大きな収穫でしょう。
画像:バーチャルでリアルタイム監視が可能
■まとめ
富山県射水市で進められるDigi-PoC TOYAMAの「避難所チェックイン×備蓄管理システム」実証実験は、県内外からの大きな関心を集めてスタートしました。11自治体・60名以上の関係者、そして50名の実験協力者がリアルな避難所運営を想定してテストを実施し、その様子を6つの報道機関が取材。災害時の混乱を少しでも軽減し、必要な物資が必要な人へ早急に届くようになることを期待する声が多く聞かれました。
今後は、参加者から寄せられた改善要望や運用上の懸念点を一つずつ解消しながら、1年程度をかけて実装に向けた検証を続けるとのこと。実証から得られる知見が蓄積され、富山県全域、ひいては全国の防災・減災につながる取り組みへと拡張していくことが強く望まれます。