富山県民のウェルビーイング向上のため、DXで地域課題を解決!実証実験プロジェクト「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)」成果報告会の開催レポート

富山県は2023年3月27日(月)、県民のウェルビーイング向上のため、IoT、AI、5G等のデジタル技術を活用して地域課題を解決する実証実験プロジェクト「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)」の成果報告会を富山県民会館にて開催しました。
実証実験に採択された7つのプロジェクトの内容と成果について、それぞれの事業者から報告が行われることに。この成果発表会はリアルタイムでオンライン配信も行われ、全国からも多くの人が視聴しました。この記事では当日の様子を紹介します。
デジタルを活用し、社会課題を解決するために開催された「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)」
オープニングでは、主催者を代表して新田八朗(にった はちろう)富山県知事から、開会にあたっての挨拶がありました。
――新田知事:昨年2月に富山県成長政略を策定しました。その柱に「県民のウェルビーイングの向上。そして幸せ人口1000万、ウェルビーイングの先進地域・富山を実現する」を掲げ、様々な施策を打っております。
一方、世の中は少子高齢化、人口減少の局面に入っており、富山県でも総動員で取り組んでいますが、何十年ものトレンドを反転させるのはそう簡単ではありません。少子高齢化、人口減少の中でも、県民のウェルビーイングを高めたい。そのためには富山県が抱える様々な社会課題をデジタル活用して解決していくしか道がないと考え、「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)」の開催に至りました。
この実証実験プロジェクトを機に、まずは富山県の地域課題を解決。そして富山県のような地域課題を抱えている全国の自治体に発信し、それぞれの課題解決につなげていければという大きな気持ちで取り組んでおります。
採択された7つの事業者がプロジェクトの概要・成果を発表
「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)」では2022年8月〜9月に実証実験プロジェクトの募集をし、全国から59件の応募がありました。有識者で構成される「富山県デジタルソリューション推進委員会」の審査を経て、7件を採択。2022年11月から2023年3月上旬までの約4ヶ月という期間、採択された事業者は実証実験に取り組んできました。
この成果報告会では実証実験を行った7つの事業者が1組ずつ登壇し、プロジェクトの概要と結果、見えてきた課題と具体的な対策案などについて報告。それを受けての質疑応答も合わせて行われました。(以下、登壇順)
募集テーマ:「幸せ人口1000万」の新規創出
地域内外連携プラットフォーム構築
株式会社IKETEL 松本氏
実証実験の概要
富山県の関係人口を創出するため、「Raction」というプラットフォームを通して「外部の人材や企業」と「富山県内のローカルプレイヤー」をマッチング。事業連携を生み出すことが可能かどうかを検証。
Web広告等で「Raction」に関心を持った事業者にテストユースを依頼し動向分析、さらに利用後のヒアリング調査を実施。
実証実験の結果
全ユーザー数は既存ユーザー含め160件(自治体28件、地域コーディネーター77件、一般ユーザー55件)。全体チャット開設数は93件。そのうち富山県と県外が関係するチャット開設数は66件。
自治体においてはITインフラが整っている、もしくはIT化/DXにビジネスチャンスがある地域のCVが高い傾向に。また、地域コーディネーターにおいては「紹介」や「補助金申請支援」、「現地アテンド」ができるとCVが高くなる傾向があった。
今後の課題、展開
「自治体職員への負担の集中」「1対1のマッチングから横への連携」「実際の事業連携に至るまで仕組み」「マネタイズ」に課題があるため、地域情報のオープン化、人のマッチングをプロジェクト型にすることなどで解決を図っていく。
募集テーマ:「幸せ人口」と富山県とのつながりの深化
地域系サービスの官民連携プラットフォーム構築
株式会社キッチハイク 鷲見氏
実証実験の概要
富山県内に存在している関係人口関連事業・ 地域系サービスを集約(アグリケート)したプラットフォームを構築。そのサービス第1弾として、富山県内で「保育園留学®」事業を実施。地域系サービス事業者や利用者にヒアリングし、持続可能なものになるかを検証。※「保育園留学®」とは、保育園の一時預かり事業やお試し移住施設、空き家などの遊休物件、さらにはまちの暮らしを組み合わせて、オリジナルのパッケージにしたもの。富山市にある上滝保育園にて、保育園留学®の「モニター家族」および「正式募集の優先お知らせ登録」の公募を実施。
実証実験の結果
「保育園留学®」の1ヶ月間の申込数は111家族で、ニーズの高さは検証できた。利用者からは保育園や小学校といった教育環境のほか、住まいや医療に関する情報の整理・拡充が求められた。
今後の課題、展開
「保育園留学®」のニーズを強みにして、「子育て家族」「地方で子育て」「地方移住検討」にターゲットを絞り、自走できるプラットフォームを構築していく。
募集テーマ:ウェルビーイング向上のための子育て世代の余暇時間の創出
ベビーテックを活用した育児負担軽減及び余暇時間の創出
NTTコミュニケーションズ株式会社 廣瀬氏
実証実験の概要
育児にITを活用する「ベビーテック」の認知度向上、利用促進を図ることで家庭内育児の負担軽減・余暇時間の創出を狙う。ベビーテックの体験会やセミナーを開催し、ITデバイスへの抵抗感の軽減と効果的な活用方法を模索。さらに、セミナー参加者にベビーテックのレンタルクーポンを配布し、実際に利用してもらい、育児への影響を検証。※ベビーテックとは、BabyとTechnologyを組み合わせた造語
実証実験の結果
ベビーテック体験会参加者の約90%がレンタルを希望。レンタルいただいたモニターからは、「育児負担が軽減し、育児時短できた」と54%が回答。さらに「夫婦のコミュニケーションが改善した」と31%が回答。親のメンタルヘルスにも好影響を与えることがわかった。
今後の課題、展開
今後は、地元の育児コミュニティ運営企業と連携し、ターゲットとなる子育て世帯がベビーテックを手に取りやすい環境づくりを整備。将来的にはベビーテックで収集したデータの利活用により、県内の育児の魅力向上を図っていく。
募集テーマ:企業のデジタル化・DX推進
高度デジタル人材マッチング
株式会社ネクトプラス 小林氏
実証実験の概要
デジタル化を進めたい県内の企業に、富山県出身のデジタル人材を紹介するマッチングサービス。さらにデジタル人材雇用および業務委託に関するコンサルティングを提供する。
デジタル人材のスキルを可視化するプラットフォームを作成。デジタル人材とリアルに会話できる交流会のほか、企業側に対してはIT・DX課題の明確化、人材側には面接によるスキルとマインドの評価をするなど、マッチングの支援を実施。
実証実験の結果
企業とデジタル人材のマッチングは5件、うちコンサルティングに至った案件は2件。プラットフォームによって効率的にマッチングさせることができたものの、運営側が介在せざるを得ない部分が多かった。
今回のようなプラットフォームを今後も利用したいという声があった一方で、「いきなりプラットフォームに入るのは心理的なハードルがある」という意見もみられた。
今後の課題、展開
他のサービスとの違いを第三者に認知してもらえるよう、見せ方を考えていく必要がある。
社会実装時のビジネスモデルとしては、コールセンターの設置や交流会の開催、人材バンクや産業支援機関などとの連携を加えた体制を提案。
募集テーマ:企業のデジタル化・DX推進
中小製造業におけるデジタルツインを用いたデータ活用人材の育成
株式会社IoTRY 加藤氏
実証実験の概要
工場の作業環境を仮想空間内に再現したデジタルツインを用い、工場での作業の振り返りや作業工程のシミュレーションを実施。デジタルツインによって質の高い現場指導を行えるかどうか、また現場作業者のデジタル活用レベルが向上するかどうかを検証。
実証実験の結果
カメラ映像、見える化画面、デジタルツインの3つで比較したところ、あるべき姿を視覚的に把握できることから、デジタルツインがどのツールよりも現場指導がしやすく、そして理解がしやすいと評価。
またデジタルツインの使用により、1日当たり38分の作業時間が短縮。作業者が自分の作業を短縮させるために自発的に行動できるようになったからと考えられる。
今後の課題、展開
導入や運用・保守は容易だった一方、細かな作業についてはセンシングが難しいと判断し、スイッチを使用した点は改善の必要がある。
今後は県の産業支援機関とも連携して、県内にある製造業がよりデジタルツインサービスを使いやすい仕組みを構築。将来的にはサービスをパッケージ化し、富山県から全国に広げていく。
募集テーマ:中山間地域における生活の利便性向上
お困りごと解決プラットフォーム
能越ケーブルネット株式会社 南氏
実証実験の概要
高齢者が日常生活を送る上での困り事にスポットを当て、地域サービスの担い手や、パートやフリーランス、学生、アクティブシニアとマッチングして、解決するデジタルプラットフォームの構築を目指した。
サービス提供エリアは氷見市宮田地区と稲積地区。利用者には能越ケーブルネットと社会福祉協議会が、サポーターには能越ケーブルネットが窓口となりサービスを提供。周知の方法は、利用者にはチラシのポスティングやシニア向けのイベントで、サポーターには能越ケーブルネットでのCMやポスターで実施。
実証実験の結果
利用者は12名、サポーターは23名が登録をし、実際に10名(件数は11件)が利用。これは宮田・稲積地区の高齢者人口(75歳以上)約275名の3.6%にあたる数値。この割合を氷見市全体に適用すると、約325名の利用者を獲得できる見込み。いきなり有料で利用してもらうのはハードルが高いと考え、初回無料としたことが多くの利用につながったと思われる。
今後の課題、展開
社会実装にあたっては、既に高齢者と深くつながっていて、信頼関係にある地域包括支援センターやケアマネージャーといった事業者と連携し、利用をさらに促進していく。
募集テーマ:県民向けアプリの連携
デジタル身分証を用いた県民向けアプリ等の連携
株式会社TRUSTDOCK 竹位氏
実証実験の概要
オンラインでの本人確認(eKYC)に取り組んできたTRUSTDOCKの知見を活かし、本人確認を済ませたユーザーに対して「デジタル身分証」を提供。これまでは対面、または郵送で本人確認を行ってきたが、オンラインで完結できれば負担軽減に。
この実証実験では、「食べトクとやま」のデジタル身分証を組み込んだアプリをリリースし、ユーザーの利用状況を集計、必要に応じて改善を実行しながら、検証。
実証実験の結果
デジタル身分証利用までにかかる負担は気にならず、便利に感じているユーザーが多かった。一方で、高齢者などITリテラシーの高くない人への配慮が必要との声も多く聞かれた。
さらに「食べトクとやま」の開発事業者にヒヤリングしたところ、実証実験を通じてデジタル身分証アプリへの組込みはスムーズであり、安全性等について問題ないことを確認。
今後の課題、展開
今回の実証により、よりきめ細やかなサポートの提供が利用拡大に向けて重要となることが判明。メールのカスタマーサポートに加え、電話やチャットを追加すること、そしてITリテラシーが高くない人に向けては、作成および利用方法の動画を作成し公開することなどを検討していく。
「富山を起点に、ビジネスの拡大や発展につなげたい」新田知事からの総評
「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)」に参加した7つの事業者からの発表が終わり、新田知事の総評へ。
――新田知事:「富山県の社会課題を解決しよう」という熱意を皆さんから感じて、とてもうれしく思っています。昨年2月に富山県戦略を策定し、様々なプロジェクトが立ち上がりました。その中の一つで、「富山しあわせデザイン」という官民連携組織を作る準備が進行しています。例えば射水(いみず)市の内川、南砺(なんと)市の井波など、特徴的なまちづくりをしている地域の人が参加するプラットフォームで、メンバーそれぞれがノウハウを持ち寄り、行政とも連携しながらウェルビーイングなまちづくりや人材育成を行うというものです。今日発表いただいたプロジェクトを活かす場として、「富山しあわせデザイン」と連携するというのも一つのアイデアかと考えています。今後も富山県を起点としたネットワークをさらに広げ、ビジネスの拡大や発展につなげてもらえれば幸いです。本年度、このプロジェクトを実施できて本当によかったです。来年度も「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)」を継続したいと考えています。
この成果報告会の終了後には、交流の場が設けられ、採択された7つの事業者の皆さんをはじめ、新田知事、富山県デジタルソリューション推進委員会のメンバーなどの間で活発な意見交換が行われました。
来年度「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)」が開催決定
新田知事の総評にもありましたが、来年度の「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)」の開催が決まりました。ますます盛り上がっていく富山県のDX活用。「富山県の地域課題を解決したい」と考える意欲的なDX事業者さんの参加を心からお待ちしています。